このページの要点
- 返金しない条項は、報酬の区分と時期の区分がないと、精算の争いで不利に評価されやすい。
- 顧客都合だけでなく、受託者の都合・不履行・不可抗力による終了の精算を一覧にして条文にする。
- 違約金は、どの時点で解約されても金額が一つに決まる式にし、既履行分・違約金・残存報酬の二重取りを排除する。
- 更新は合意更新か、通知の到達を起点にする形で止め方を書く。法定の30日前予告がかかる取引に注意する。
結論:争点は「解約できるか」ではなく「解約したときにいくら精算するか」
コンサル契約や顧問契約の多くは準委任なので、民法の原則では、各当事者はいつでも契約を解除できます(民法651条1項)。受託者は、途中で終わったときは、すでにした履行の割合に応じて報酬を請求できます(民法648条3項2号)。つまり、契約書に何も書いていなければ、顧客はいつでもやめられ、受託者は提供した分の報酬しか受け取れないのが出発点です。
一方で、民法651条2項2号は、受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く)をも目的とする委任を解除した場合に損害の賠償を求めており、括弧書きにあるとおり、報酬を得られなくなること自体は賠償の対象になりません。経営マーケティングのコンサルのレビューで事務所は、この括弧書きがあるため、受託者が以後の報酬を失う不利益を守る根拠は、契約書の精算の条項しかないと説明しました。また、委任者は解除権そのものを放棄したと解されない限り解除でき、受任者の不利益は損害賠償で埋めれば足りるとした最高裁昭和56年1月19日判決を引き、「争点は解約できるかではなく、解約したときにいくら精算するかである」とまとめています。
このページでは、返金しない条項の評価、精算の一覧表、違約金の計算が破綻しない書き方、最初の月で解約されないための設計、更新の止め方を扱います。相手方が消費者に当たり得る場合の特有の問題は相手方が個人・開業前のときのページで扱い、ここでは事業者間の契約を中心に説明します。
「途中でやめても返金しない」条項はどう評価されるか
一括前払いで受け取った報酬を「解約の時期を問わず全額保持する」と定めた条項について、事務所のレビューは、準委任の原則からすると、未履行の部分を違約金や賠償額の予定として顧客に負わせる条項だと評価しました。違約金は賠償額の予定と推定されます(民法420条3項)。そのうえで、相手方の属性によって評価の枠組みが変わると説明しています。
| 相手方 | 主な判断の枠組み | 時期の区分がないと |
|---|---|---|
| 消費者 | 消費者契約法9条1項1号。解除の事由・時期等の区分に応じた「平均的な損害」を超える部分は無効 | 区分ごとの平均的な損害と比べられないため、超える部分が大きく評価されやすい |
| 事業者 | 合意は原則として尊重される。ただし著しく過大なら公序良俗(民法90条)で一部無効の余地。改正前の民法420条1項後段(裁判所は予定額を増減できない)は削除されている | 解約の時期と履行済みの割合との釣り合いを説明しにくい |
事業者間の場合に事務所が挙げた考慮要素は、解約の時期と履行済みの割合、空いた枠を他の顧客で埋められるか、事前の説明、規模や交渉力の差、金額の大きさの5つです。学校の入学金と授業料の返還に関する最高裁平成18年11月27日判決も紹介しています。この判決は、3月31日までの解除では授業料の不返還特約を原則として無効とする一方、4月1日以後の解除では原則として有効とし、入学金は入学できる地位の対価として返還不要としました。報告書はこの両面を示し、「性質で区分された部分は返還不要とされ得る」ことを、報酬を区分する改訂の裏付けにしています。
反対の立場からの評価もあります。8か月のSNS運用・内製化のコンサルで、受託側の会社から相談を受けた案件では、発注者の都合による解約で総額を請求でき、返金もしない条項について、民法651条1項と648条3項は当事者の合意で修正し得る規定であるとして、賠償額の予定として「事業者間の合意として基本的に有効」と評価しました。条文の中に「乙が人員の手配及び講義の準備を進めていること」という前提事実を書いている点も、満額請求の合理的な根拠として評価しています。ただし、著しく過大なら公序良俗で減額される余地があるとして、金額の算定根拠(人員の確保の費用や機会損失)を一文加えることを勧めました。この報告書では、一次資料で事件名まで確認できた裁判例が見当たらなかったため、特定の事件名は引用しないと明記しています。
精算の一覧表をつくる:終了の理由ごとに分ける
経営マーケティングのコンサルの雛形は、顧客の都合による解約だけを定め、受託者の都合や受託者の不履行、不可抗力による終了の精算がありませんでした。片方だけの規定は、不返還の条項の合理性を判断するときにも不利に働きます。事務所は終了の理由ごとの精算の一覧表を示し、改訂版で精算の条文を新しく組みました。
| 終了の時期・理由 | 精算の考え方 |
|---|---|
| 業務の開始前に終わった | 理由を問わず全額を返す(振込手数料は受託者の負担)。ただし最初の支払の遅れによる受託者からの解除だけは定額の損害金 |
| 開始後・初期設計の期間中に終わった | 初期設計の報酬は、面談の実施の割合で按分する(顧客が日程に応じなかった分は実施したものとみなす) |
| 開始後・初期設計の期間の後に終わった | 初期設計の報酬は全額を取得。継続支援の報酬は終了日を含む業務月まで |
| 受託者側の事由・不可抗力で終わった | 終了した月だけ日割りにする(不可抗力の日数は除く) |
| 受け取った額が精算額に足りない | 顧客が差額を払う。精算額を超える報酬の支払義務は負わない |
精算の算定根拠を説明する義務の条項もあわせて置きました。開始前に終わった場合の計算ができない、最後の月の解約で二重に計上されるといった問題が出ないよう、全期間の各月で計算を試してから確定しています。
SNS運用・内製化のコンサルの報告書では、解除の3つの類型(発注者の都合による解約、発注者が受託者の違反で解除、受託者が発注者の違反で解除)を表にし、受託者からの解除にも満額請求の項を準用する文言を勧めました。発注者の都合で実施できなかった研修(現場での実地指導)について、別段の合意がない限り返金は不要とする文言も加えています。全額前払いの構造なのに、実施できなかった分の扱いが「協議」になっていたからです。売上を分け合う契約の途中終了では、充当済みの費用と発生済みの費用の差を返す精算が必要になります。その考え方はレベニューシェアのページで説明しています。
違約金の計算が破綻しない書き方と、二重取りの排除
人事・組織開発の顧問型コンサルでは、依頼者の原案の中途解約違約金が「残存期間の基本報酬の総額の50%、月額3か月分を下限、残存総額を上限」となっていました。残りの期間が3か月未満になると、下限が上限を上回り、金額が決まりません。最終版では次のように直しました。
事務所の改訂例 中途解約違約金(人事・組織開発の顧問型コンサル)
計算式
なぜどの時点で解約されても金額が一つに決まるようにするため。
二重取り
なぜ過大な請求と評価されると違約金の条項そのものが無効・減額されるおそれがあるため。説明書では最も重要な修正点と位置づけた。
顧客の責めによる履行不能
なぜ解約と、顧客の責めによる履行不能では根拠が違うため。
同じ最終版では、違約金が生じない場合として、受託者の重大な不履行による顧客からの解除と、不可抗力などで継続が客観的に困難な場合を挙げ、その場合は協議とすることにしました。さらに、顧客の協力(情報の提供、会議への参加、支払)が著しく足りない場合は、受託者が相当の期間を定めて是正を求め、是正されなければ将来に向かって終了できるとしています。違約金の条項は、受託者を守る方向だけで書くと一方的だと評価されやすく、違約金が生じない場面も書いておく方が全体として有効性が支えられます。
最初の月で解約されないための設計
構築と伴走を組み合わせたIT活用コンサルでは、当初の2か月を一体のものとし、締結日から当初期間の満了まで顧客は解約できず、申出や受領の拒否があっても当初期間の報酬全額を払い、既払金は返さないと定めました(受託者の責めによる解除や別の合意がある場合を除く)。開始前のキャンセルも全額としています。方針説明では、根拠として民法651条1項と上の最高裁昭和56年判決、賠償額の予定の機能(民法420条)を挙げ、当初期間の報酬を守る理由を説明しました。
最初の時期の解約に備える3つの方法
当初期間の不可分
構築が先に集中する契約に
- 当初の一定期間は解約できないと定める
- 開始前のキャンセルも全額とするかを決める
- 受託者の責めによる解除は例外にする
最低契約期間
継続を前提にした料金に
- 経営マーケティングのコンサルでは、業務開始から6か月が経つ前の解約の通知は、6か月の満了日に効力を生じるとした
- 開始前に届いた通知も同じ扱いにした
- 顧客が法定・約定の解除事由によらずに「解除」した場合も解約として扱う
継続割引の精算
割引の前提が崩れたときに
- 初期設計の報酬を、継続を前提に単独提供の価格から2割引いた額とした
- 早期に解約されたら、割引額×未経過の月数÷6を精算する
- 最低契約期間中の受託者からの解除では、6か月目までの継続支援相当額を損害金とした
美容サロン事業者向けの継続コンサルでは、任意の解除を認めないとしたうえで、「乙が民法第651条第1項に基づき本契約を解除した場合であっても」満了日までの受講料の支払義務は残ると書き、同じ条に「消費者契約法その他強行法規に反しない範囲で適用する」と入れていました。相手方が個人事業主でも消費者でもあり得ることを意識した保険と読めます。ただし、こうした一文で強行法規の適用を外せるわけではなく、相手方が消費者に当たれば、平均的な損害を超える部分は無効になります。
更新:自動更新か合意更新か、止め方の日数
経営マーケティングのコンサルの雛形は、「同一条件」で12か月ごとに自動で更新する形でした。事務所の報告書は、支払期日が初年度の特定の日付しか書かれていないため、2年目の支払の時期が決まらず、期間で報酬を定めた場合の後払いの原則(民法648条2項ただし書、624条2項)に戻るおそれがあると指摘しました。初年度の不返還の理由として書かれていた「契約初期の分析」も、2年目には当てはまりません。賃貸借の更新料に関する最高裁平成23年7月15日判決が、契約書に一義的かつ具体的に記載されていることを前提にしていたことも紹介しています。改訂版では、自動では更新しないと明記し、受託者が満了の2か月前までに条件を書面で示し、顧客が満了の30日前までに書面で承諾した場合に限って、合意書で更新する方式にしました。
開業を支援する一括前払いの単発のコンサルでは、修正の際に自動更新の条項そのものを削りました。報酬が一回限りの前払いである以上、自動更新は契約の性質に合わないためです。期間の書き方では、SNSマーケティングの個人コンサルで、確定の日付をやめて「契約締結日から起算して6ヶ月間」と書くように改めました。締結日が決まらない段階でも使えるようにするためです。
短い更新期間で「止め方」が機能しなくなる仕組み
- 1か月ごとの更新に、1か月前の通知を組み合わせる顧問契約などで、1か月ごとに自動更新しつつ、更新しないときは満了の1か月前までに通知すると書くと、通知の期限が現在の期間の初日と重なり、実質的に止められない。
- 「次回更新日の30日前まで」と書く1か月更新では、30日前が現在の期間の初日より前になることがあり(2月は必ずそうなる)、2回先の更新日までやめられない。
- 通知の到達を起点にする「通知が到達した日から30日を経過した日以後に最初に到来する更新日に終了する」と書けば、いつ通知しても止まる日が一つに決まる。
有償のパイロット利用の契約のレビューでも同じ問題を指摘し、提供者の側から更新を止める権利をこの書き方で新設しました。
パイロットから正式な契約への切替えの書き方は、PoC・パイロット・覚書のページで扱います。
受託者が個人で、発注する顧客が一定の事業者である場合、6か月以上続く業務委託の解除や更新しないことには、フリーランス法16条1項により、災害などの例外の場合を除いて少なくとも30日前の予告が必要になり、受託者から求められれば理由を開示しなければなりません(同条2項)。IT活用コンサルの確定版では、ヒヤリングの回答で顧客の更新停止の通知を満了の7日前としつつ、「法令の手続が定められる場合は顧客はそれに従う」と書いて法定の義務を留保し、受託者からの更新拒絶は30日前としました。SNS運用・内製化のコンサルの報告書では、8か月の契約がこの規定の対象になり得るのに契約書に言及がないとして、予告と理由の開示の項を新設する文言を勧めています。この規定が適用されるかどうかは、発注する側の要件だけでなく、受託する側が従業員を使わない個人やひとり社長であるかどうかにもよるため、双方の体制を確かめてから書きます。
受託者の側から終わらせるとき、行き過ぎた拘束
中途解約の条項は顧客の側からの解約ばかりが話題になりますが、受託者の側から終わらせる必要が生じることもあります。経営マーケティングのコンサルの雛形では、受託者にも理由を問わない30日前の解約権がある一方で、不返還は顧客の都合の場合に限られていました。改訂版では、顧客の解約は通知の到達日の翌日から起算して30日を経過する日か、通知に書いた日の遅い日に効力を生じるとし、受託者の解約は代表者の病気その他やむを得ない事由がある場合に限って60日前の通知で行えるとしました(通知が難しければ直ちに)。受託者が自由にやめられる契約で顧客にだけ返金しない条項を課すと、不返還の条項の合理性の判断で不利に働くためです。
受託者が個人の場合は、本人が病気やけがで続けられなくなる場面への備えも必要です。AI活用コンサルの基本契約では、受託者の傷病などで業務ができなくなった場合に、通知と協議を行い、提供済みの分を精算し、提供していない分を返すと定めていました。事務所のレビューは、この定めを一方的でない設計と評価しつつ、「長期間困難となった場合」の期間があいまいだと指摘しています。何日続けば終了の手続に入るのかを書いておかないと、顧客は待つべきか、別の人を探すべきか判断できません。
双方が対等に解約できる形を取った契約もあります。伴走型の経営支援の契約では、双方とも30日前に通知すれば任意に解約でき、按分の精算は解約日までとしました。経理・内部統制の助言の雛形では、双方とも1か月前の通知で中途解約でき、顧客が解約したときは受託者が合理的に負担した費用を顧客が負担するとしています。継続的な助言で、一方だけを強く拘束する理由がない契約では、このような対等な形の方が交渉も締結も円滑です。
反対に、拘束を強めすぎた条項も見てきました。最初の3か月を無料とする継続コンサルの契約では、有料の期間に入った後は「いかなる理由があっても」解約や期間の短縮の申入れができず、内容や効果への不満を理由とする減額や支払の停止も認めず、支払の拒否には催告なしで法的手続をとれ、「乙はこの法的手続に異議を申し立てることはできない」とまで書いていました。裁判で争う権利を契約で奪うような条項は、それ自体の効力が疑わしいうえ、契約全体が一方的だという印象を与えます。サロン向けの経営コンサルでも、中途解約を禁じ、年額で払った場合も残りの期間の分を返さないとしつつ、受託者の重大な違反や正当な理由のない履行の放棄の場合は例外として解除と相当額の返還を請求できるとしていました。拘束を置くなら、受託者の側の不履行という出口も必ず書いておくことが、条項を守ることにつながります。
起きがちなこと
中途解約と更新について、事務所の書類で繰り返し見てきたこと
- 「いかなる理由でも返金しない」とだけ書き、報酬の区分も時期の区分もない。
- 顧客の都合による解約だけを定め、受託者の都合や不可抗力による終了の精算がない。
- 違約金の下限と上限が、残りの期間によっては逆転する。
- 既履行分、残存報酬の全額、違約金のすべてを請求できるように読める。
- 「同一条件で自動更新」としながら、2年目の支払期日が書かれていない。
- 1か月更新に1か月前の通知を組み合わせ、実質的に止められない。
- 法定の予告の義務がかかる取引なのに、契約書の予告期間がそれより短い。
一括前払いの報酬の区分の仕方は報酬設計のページで説明しています。
よくあるご質問
一括前払いのコンサル料を「途中解約でも返金しない」とするのは有効ですか?
事業者間の契約なら、合意として原則は尊重されますが、著しく過大なら一部が無効とされる余地があります。相手方が消費者なら、解除の時期などの区分に応じた平均的な損害を超える部分は無効です。報酬を、最初に集中する設計の部分と継続支援の部分に区分し、時期ごとの精算の表を置いておくと、返さない部分の根拠を説明しやすくなります。
中途解約の違約金を「残存期間の◯%・最低◯か月分」と書くときの注意点は?
残りの期間が短くなると、下限が上限を上回り、金額が決まらなくなることがあります。原則の計算、下限、上限、残存が下限に満たない場合の扱いを順に書き、どの時点でも金額が一つに決まるか確かめます。既履行分の報酬と違約金のほかに残存報酬の全額まで請求できると読める書き方は、過大な請求と評価されるおそれがあるので避けます。
最初の1か月だけで解約されないようにするには?
当初の一定期間を一体として解約できないと定める方法、最低契約期間を置いて期間中の解約の通知は満了日に効力を生じるとする方法、継続を前提に割り引いた料金を早期解約時に精算する方法があります。受託者の責めによる解除は例外にしておくと、全体として釣り合いが取れます。
1か月ごとの自動更新で、更新を止める通知の期限はどう書けばよいですか?
「満了の1か月前まで」「次回更新日の30日前まで」と書くと、通知の期限が現在の期間の初日より前になり、実質的に止められないことがあります。「通知が到達した日から30日を経過した日以後に最初に到来する更新日に終了する」という書き方にすると、いつ通知しても終了日が一つに決まります。
顧客から更新しないと言われるとき、30日前の予告が必要になるのはどんな場合ですか?
受託者が従業員を使わない個人やひとり社長で、発注する顧客が従業員を使うなど一定の事業者であり、6か月以上続く業務委託である場合です(フリーランス法16条)。顧客は少なくとも30日前に予告し、求められれば理由を開示しなければなりません。契約書の予告期間が短くても、法定の義務はなくなりません。
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