共同開発:資金・権利・止め方を、段階ごとに決める

共同開発の契約は、開発が順調な間は静かなものです。資金が足りなくなったとき、仕様が変わったとき、事業化の判断が分かれたとき、会社が売却されるときに、初めて内容が問われます。

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「協議の上、書面で定める」とした各段階の金額が、協議のたびに決まらず、資金が止まって開発が遅れる契約があります。

このページの要点

  • 開発資金は、返さない拠出か、貸付か、貸付から拠出への転換かを決める。各段階の金額が決まらないときの配分も書く。
  • 開発が止まる理由(技術的な限界、量産の見送り、一方の違反、外部の事情)ごとに、資金・成果・秘密の扱いを書く。
  • 既存の技術、共同の成果、製品の名前や意匠の権利を分ける。共有特許は特許法73条の原則(自己実施は自由、許諾は同意が必要)との違いを確認する。
  • 対価は営業利益の算定方法まで決め、会社の売却時の清算と、終了後のサービス継続・移行まで書く。

結論:共同開発契約は、開発の「段階」ごとに、資金・権利・止め方を決める契約として組む

共同開発契約書は、製品やサービスを2社以上で開発するときに、役割、費用、成果の権利、事業化後の分け方を決める契約です。売買や請負と違って、最初から完成品の姿が決まっているわけではなく、開発が進むにつれて仕様も費用も変わります。そのため、契約書には、いま分かっていること(役割、資金の総額、既存の技術の帰属)と、これから決めること(仕様、各段階の金額、事業化の判断)を分けて書き、後者には決め方と止め方を用意しておく必要があります。

アトラス行政書士法人が扱ってきた共同開発の書類には、製造・販売の力を持つ会社と、専門的な知見を持つ会社が、製品を共同で開発し、知見を持つ側が開発資金を段階的に提供する基本合意書(3つの版)があります。ほかにも、技術の基盤を持つ会社とサービスを持つ会社の技術提携、営業を担う会社と開発を担う会社のウェブサービスの協業、大企業との基本契約の中の共有特許の定めがありました。形はさまざまですが、書くべきことは次の4つに集まります。

  1. 役割と責任の分け方:誰が何を受け持ち、どこまでを誰の責任とするのか。
  2. 開発資金:誰が、いつ、いくら出し、何に使い、使い切れなかった分や開発が止まったときはどうするのか。
  3. 成果の権利:もともと持っていた技術、共同で生まれた成果、製品の名前や意匠は、それぞれ誰のものか。
  4. 事業化と終わり方:事業化の判断、収益の分け方、会社が売却されたとき、契約が終わった後のサービスの継続。

収益を分けることと、権利を共有することは別の話であることは、業務提携・共同事業のページで説明しています。成果物の権利を「渡すもの」と「残すもの」に分ける考え方は成果物・ノウハウ・知的財産のページに、基本合意書そのものの拘束力の書き分けは基本合意書のページにまとめています。このページでは、それらを前提に、共同開発に固有の部分、つまり開発資金の出し方と開発が止まったときの扱い、事業化の段階での清算に重心を置きます。引用する特許法・著作権法・商標法・民法の条文は、2026年10月20日にe-Gov法令検索で現行の条文を確認しています。

段階で組む:基本合意から事業化までと、役割・責任の分け方

共同開発は、いくつかの段階を経て進みます。契約書も、その段階に合わせて作ると、いつ何が決まるのかが見えるようになります。試作や実証の段階を、費用を負担しない無償の試験として切り出す場合の覚書の書き方は、PoC・覚書のページにあります。

共同開発の段階と、各段階で決めておくこと

  1. 1 基本合意目的、役割分担、開発資金の総額と出し方、既存の技術の帰属、事業化後の分け方の大枠を決めます。法的に拘束する部分と、しない部分を分けます。
  2. 2 試作の開始資金の第1回の提供、仕様の確定の手続、試作の完成基準を決めます。ここから開発費用が発生します。
  3. 3 試作の完成完成の判断を誰がするか、第2回の資金の提供、量産に移るかどうかの判断の基準を決めます。
  4. 4 量産・事業化の決定量産開始の決定と資金の最終回、製品の名前・意匠の権利、販売体制を決めます。貸付形式の資金を拠出に切り替えるのもこの段階です。
  5. 5 事業化後営業利益などに基づく対価の支払、帳簿の確認、会社が売却されたときの清算を決めます。
  6. 6 終了契約が終わった後の秘密保持、競業、サービスの継続や移行を決めます。

基本合意の段階では、2から5の具体的な金額や時期を「協議の上、書面で定める」とする書き方がよく使われます。その場合は、協議が整わなかったときの扱い(いつまでに決める、決まらなければ中止できる、など)を併せて書いておきます。

役割の分担は、事務所の基本合意書では、製造・販売の側と、専門知見の側で次のように分けていました。製造・販売の側は、素材その他の資材の調達、製造工程の設計と管理、品質管理、製品の販売・流通・マーケティング、ブランドの運営。専門知見の側は、素材の選定、専門知見に基づく設計、原料の選定と品質に関する監修、製品のコンセプトの設計と監修です。製品の具体的な仕様や開発のスケジュールは、双方が協議して決めると書かれています。

役割の分担を書くときに見落としやすいのは、「監修」の責任です。監修する側は、製品の品質や安全について、どこまでの責任を負うのでしょうか。製造する側が製品を作って売り、監修者が設計を担っているなら、製品に問題が見つかったときに、設計の問題なのか製造の問題なのかを、契約の段階で切り分けておく必要があります。責任の分界を図にして別紙に添付する方法は業務提携・共同事業のページで説明しています。製品の共同開発でも、工程の図(原料の選定、設計、製造、品質検査、出荷)に、誰の責任かを書き込む方法が使えます。

責任の上限についても、基本合意書の中で次のように定めていました。損害賠償の総額は、資金を提供した側が提供した事業開発資金の総額を上限とする。ただし、故意または重大な過失によって生じた損害には、この上限を適用しない。特別損害、間接損害、逸失利益については責任を負わない(これも故意または重大な過失の場合は除く)。開発の段階で、利益がまだ出ていないのに、損害賠償だけが無制限に膨らむ事態を避ける設計と読めます。

開発資金:拠出か貸付か、段階払い、使途と報告

共同開発で一方がもう一方に開発資金を提供する場合、その資金の性質を決めないと、事業が思うように進まなかったときに「返してもらえるお金なのか、返さなくてよいお金なのか」で争いになります。基本合意書の原案は、資金を「拠出」すると書き、開発の進み具合に応じて段階的に出す内容でした。事務所の修正版では、これに加えて、資金の提供を貸付の形式にできる余地と、貸付から拠出へ切り替える余地を書き込んでいます。ここでは、資金の性質を一般的に3つの型に整理します。

開発資金の性質の3つの型

返さない拠出

対価はロイヤリティなどで回収する

  • 開発が失敗した場合、提供した資金は戻らない
  • その代わり、成功したときの対価(営業利益の一定割合など)を高めに設定する
  • 事業化の見込みが立っていない段階の開発に向く

返す貸付

金銭の貸借として、返済の条件を決める

  • 金銭消費貸借(民法587条)として、返済の期限、方法、利息を決める
  • 補助金の申請など事業上の必要があるときに、資金の提供の方法を貸付に変える余地を残す書き方もある
  • 返済の原資をどうするかは、開発が失敗したときの返済能力と合わせて決める

貸付から拠出への転換

条件を満たしたら、貸付を拠出に切り替える

  • 仕様が確定し、量産の開始が決定した段階で、貸付金の全部または一部を拠出に転換する
  • 量産に至らなければ、貸付のままなので返済が必要になる
  • 転換の条件(誰が、いつ、何を基準に判断するか)を書く必要がある

事務所の修正版は、補助金の申請などの事業上の必要があるときは、協議の上で資金提供の全部または一部を貸付形式にでき、貸付形式の場合でも、仕様が確定し量産の開始が決定したときは、協議の上で貸付金を拠出金に転換できる、としています。貸付額、返済方法、転換条件は別に書面で定めます。

事務所の改訂例 開発資金の定めの改訂例(基本合意書の原案から修正版へ)

資金の使途

改訂前原案:事業開発資金を、本製品事業の開発及び関連事業のためにのみ使用する。
改訂後修正版:研究開発、試作、製造準備その他これらに関連する事業のためにのみ使用し、他の事業目的に使用してはならない。

なぜ「関連事業」では範囲が広く、提供された資金が他の事業に流れる余地があります。使途を開発の段階に即して具体的に書き、他の目的への使用を禁じておくと、資金を出す側の安心につながります。

資金の使用状況の報告

改訂前原案:四半期ごとに報告する。
改訂後修正版:四半期ごとに、書面または電子的な方法で報告する。

なぜ報告の方法が曖昧だと、報告したか、していないかで争いになります。形式を決めておけば、報告の証拠が残ります。

資金提供の方法

改訂前原案:拠出する(返還や貸付の定めなし)。
改訂後修正版:補助金の申請など事業上の必要があるときは、協議の上、一部または全部を貸付形式とできる。仕様の確定と量産の開始の決定があれば、貸付金を拠出に転換できる。

なぜ資金の性質を変える可能性がある場合は、あらかじめ変える条件を書いておかないと、後から性質を変えるための合意が必要になります。

条文例開発資金の段階払い(書き方の一例)

  1. 乙は、本製品の開発資金として、総額〇〇円を、次の各段階で、甲に提供する。(1)試作の開発の開始時 (2)試作品の完成時 (3)量産の開始の決定時
  2. 前項各号の段階における提供の金額及び時期は、甲乙が協議の上、書面で定める。協議が整わないときは、前項の総額を、各号に〇対〇対〇の割合で配分した額とする。
  3. 甲は、提供を受けた資金を、研究開発、試作、製造準備その他本製品の開発に直接関連する用途にのみ使用し、他の事業目的に使用してはならない。
  4. 甲は、資金の使用状況を、四半期ごとに、書面又は電子的方法により乙に報告する。乙は、報告の内容に疑義があるときは、使途を裏付ける資料の提出を求めることができる。

書き方の要点「協議の上、書面で定める」とだけ書くと、協議が整わなかったときに、資金の提供を求める根拠がなくなります。決められない場合の配分の割合も、あらかじめ書いておきます。

開発が止まったとき:資金と成果と秘密をどうするか

共同開発は、うまくいかないこともあります。むしろ、うまくいかなかったときの扱いが書かれているかどうかが、契約書の出来を分けると言えます。止まる理由によって、資金の扱いも、成果の扱いも変わるからです。

開発が止まる理由ごとの扱い(一般的な整理)
止まる理由提供した資金それまでの成果気を付けること
技術的に実現できないと分かった返さない拠出なら戻らない。貸付なら返済が必要既存の技術は元の持ち主に戻り、共同で生まれた成果は共有のまま、または廃棄実現できないという判断を誰がするのか、その基準を決めておく
試作は完成したが、量産に進まない貸付から拠出への転換は行わない。貸付のままなので返済試作品と試作の成果を、どちらが引き取るか量産に進まない判断を一方だけでできるのか、双方の合意が必要なのかを決める
一方が義務を果たさない違反した側の責めによる中止なら、資金の返還や損害賠償を求める違反した側は、成果の利用を制限される催告して是正を求める手続と、催告なしで解除できる事由(支払停止、破産手続の申立てなど)を分ける
外部の事情(法令、市場)が変わった双方協議で、未使用分の返還と使用済み分の扱いを決める共同で売却するか、一方が引き取るか外部の事情による中止は、損害賠償を請求しないと書いておく
合意で終える未使用分を返し、使用済み分の取扱いを協議共有のまま、または一方が引き取る終了時の合意書面で、残る義務(秘密保持、競業)を確認する

基本合意書では、解除の定めとして、相手方が合意に違反して、相当の期間を定めて是正を求めても是正されないときは、全部または一部を解除できること(民法541条の考え方)、支払停止や破産手続の申立て、事業の継続が著しく困難となった場合などは催告なしで解除できること(民法542条の考え方)、双方の合意によって解除できることを定めていました。これらは開発が止まる場面の共通の入口になりますが、解除したあとの資金の返還や成果の扱いは、解除の定めとは別に書く必要があります。

解除した後に残る条項(存続条項)の書き方も重要です。秘密保持の条項の作り方は秘密保持・個人情報・生成AIのページ、NDAのページで扱っています。基本合意書では、合意が終了した後も、知的財産権の条項、秘密保持の条項、その他の性質上存続すべき条項は有効に存続すると定めていました。何が存続するのかを「性質上存続すべき条項」とだけ書くのではなく、秘密保持、既存の技術の権利、競業避止の終了後の期間などを列挙して書くと、争いを防げます。

成果の権利:既存の技術、共同で生まれた成果、製品の名前や意匠

共同開発で最も争いになりやすいのが、成果の権利です。事務所の基本合意書では、権利を3つに分けて書いていました。ひとつめは、専門知見の側が合意の前から持っている知識、設計の内容、配合のレシピ、研究データ、ノウハウです。これに関する一切の権利は、引き続きその側に帰属します。ふたつめは、製品の商標、ブランドの名称、パッケージデザイン、製品仕様その他の販売に関連する権利で、原則として製造・販売の側に帰属します。基本合意書で書かれていたのは、この2つです。

既存の技術の使用を許諾する方法も、版を重ねるうちに変わりました。原案では、製造・販売の側が、製品の研究開発、製造、販売の目的の範囲で、既存の知見を「非独占的に」使用できるとしていました。修正版では、特定の製品区分に属する本製品に限って、独占的な使用を許諾するとしたうえで、製品の販売を開始しない場合や、販売開始後に連続して一定期間(12か月)以上販売しない場合には、独占的な使用許諾が自動的に非独占に転換するとしています。

事務所の改訂例 既存の技術の使用許諾の改訂例

許諾の範囲

改訂前原案:研究開発、製造、販売の目的の範囲で、非独占的に使用できる。
改訂後修正版:本製品に限り、独占的な使用を許諾する。ただし、販売を開始しない場合や、販売開始後に連続して一定期間販売しない場合は、自動的に非独占に転換する。

なぜ独占的に使わせれば、製造・販売の側は安心して投資できます。他方、販売が行われないまま独占が続くと、技術の持ち主が他の事業者と組む機会を失います。転換の条件を付けることで、両方のバランスを取ります。

持ち主自身の利用

改訂前原案・修正版とも:専門知見の側は、自らの活動や研究で、既存の技術を自由に利用できる。製造・販売の側は、承諾なく本製品以外に使用してはならない。
改訂後(変更なし)

なぜ独占的な許諾をしても、持ち主が自分の事業や研究で使えなくなるわけではないことを、明確にしておきます。

共同で生まれた新しい技術(共同発明)については、特許法の定めが出発点になります。

共有になった権利の使い方(法律上の原則)
権利持分の譲渡など自分で使う・出願する第三者に使わせる
特許を受ける権利(出願前)持分の譲渡には他の共有者の同意が必要(特許法33条3項)。質権の目的にはできない(同条2項)出願は、他の共有者と共同でなければできない(特許法38条)仮専用実施権の設定・仮通常実施権の許諾に、他の共有者の同意が必要(特許法33条4項)
特許権持分の譲渡にも質権の設定にも他の共有者の同意が必要(特許法73条1項)契約で別段の定めをした場合を除き、他の共有者の同意なく実施できる(特許法73条2項)専用実施権の設定・通常実施権の許諾に、他の共有者の同意が必要(特許法73条3項)
著作権持分の譲渡にも質権の設定にも他の共有者の同意が必要(著作権法65条1項)共有者全員の合意がなければ行使できない(著作権法65条2項)許諾は行使として扱われ、共有者全員の合意が必要(著作権法65条2項)。正当な理由がなければ、同意を拒み、合意の成立を妨げることはできない(同条3項)
商標権特許法73条が準用される(商標法35条)同上同上

特許権の共有者が、契約で別段の定めをしないと、自分で実施することは自由で、第三者に実施を許諾することだけが同意の対象になります。

ここで契約書が果たす役割は、法律の原則を、事業の実態に合わせて書き直すことです。大企業の取引先から、共有になった特許の自己の利用にも事前の書面による承諾を要するという条件を示されたときの点検は、大企業・外資系の取引先とのコンサル契約のページで説明しています。共同開発の契約で、自己の利用にも承諾を要するという定めを置く場合は、その分の対価や、正当な理由なく承諾を拒めないとする定めを加えることが考えられます。

もうひとつ、共同開発では、特許の出願前に試作品や技術情報を公にしてしまうと、新規性を失うおそれがあります(特許法29条1項各号は、出願前に公然知られた発明、公然実施された発明、刊行物等に記載された発明を、特許を受けられないものとしています)。展示会への出展や、取引先へのサンプル配布の前に、出願するか、公開に双方の同意を要するとしておくことが必要です。公開の禁止を書くときは、製品の販売のための必要な範囲での開示を除外しておかないと、販売そのものが契約違反になってしまう点に注意が必要です。

縛りすぎない:競業、改良の取扱い、独占禁止法の指針

共同開発では、相手方が自分の技術を使って競合品を作ることや、開発の成果を使って別の改良をすることを防ぎたいという要望が出ます。ここで縛り方が強すぎると、契約として機能しないだけでなく、独占禁止法上の問題を生じるおそれもあります。

公正取引委員会の「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」(平成5年4月20日公表、平成29年6月16日改定。2026年10月20日確認)は、共同研究開発の実施に伴う取決めを、不公正な取引方法に該当するかどうかの観点から、類型に分けて整理しています。その中で、問題になりやすい取決めとして挙げられているものには、次のようなものがあります。

  • 共同研究開発のテーマ以外の研究開発を制限すること、終了後に同一のテーマの研究開発を制限すること(不公正な取引方法に該当するおそれが強い取決めとして整理されている)。
  • 成果の改良発明を、他の参加者に譲渡する義務を課すこと、または他の参加者に独占的に実施許諾する義務を課すこと(同じく、おそれが強いものとして整理されている)。
  • 成果の改良発明を、他の参加者へ開示する義務、または非独占的に実施許諾する義務を課すこと(原則として、不公正な取引方法に該当しないと整理されている)。

事務所の基本合意書では、資金を提供する専門知見の側に、有効期間中は、製造・販売の側の承諾なく、本製品のブランドと実質的に同一または類似する製品の開発や販売をしない、という競業の避止の義務を課していました。ただし、専門知見の側の本来の活動、研究活動、一般的な製品の研究、開発、販売には適用しないとして、除外の範囲を明確にしています。終了後も2年間、この義務が存続するとしていますが、禁止される範囲は、本製品と同一または類似の製品に限られています。

この書き方は、競業の禁止を、製品そのものに近い範囲に限り、相手方の本来の事業を守る除外を設ける、という一般的な考え方に沿ったものです。共同開発の参加者が、競合する可能性のある会社どうしの場合は、これらの取決めが独占禁止法上の問題を生じないかの検討を、書面の作成の段階で行っておく必要があります。

縛る条項を置く前に確かめること

  • 禁止の対象は、共同開発の対象の製品そのものか、それに近い製品か。事業全体を縛っていないか。
  • 禁止の期間は、開発の期間、事業化の期間、終了後の期間のどれか。終了後に続くなら、何年か、その理由は何か。
  • 相手方の本来の事業(研究、別の製品)を除外する条項を置いたか。
  • 改良発明について、開示や非独占の許諾にとどめるか、譲渡や独占の許諾まで求めるか。後者は、独占禁止法上の指針の整理を確かめたか。
  • 禁止に違反したときの措置(違約金、差止め)が、禁止の範囲に釣り合っているか。

事業化後と終了後:対価の計算、会社が売却されたとき、サービスの継続

事業化に成功すると、今度は収益の分け方が問題になります。事務所の基本合意書では、製造・販売の側が、製品の事業が黒字化した場合に、資金を提供した側へ、製品の事業から生じる営業利益に基づくロイヤリティ(営業利益の一定割合)を支払うと定めています。支払期間は、黒字化した日から一定期間(5年)。支払の期限は、原案では各事業年度の終了後90日以内(年1回)でしたが、修正版では各月末日を締日として、翌月末日までに払う(月次)に変えています。

事務所の改訂例 ロイヤリティの定めの改訂例

支払の時期

改訂前原案:各事業年度の終了後90日以内に、当該年度の額を算定して払う。
改訂後修正版:黒字化の後、各月末日を締日として当該月の額を算定し、翌月末日までに払う。

なぜ年に1回の支払だと、資金を提供した側の回収が遅れ、計算の根拠の確認も年に1回になります。月次にすれば、計算の誤りや費用の付け替えに早く気付けます。

対価の累計の上限

改訂前原案:定めなし。
改訂後修正版:ロイヤリティの累計額は、提供した事業開発資金の数倍に相当する額を上限とする。

なぜ上限を入れることで、製造・販売の側にとって、負担の最大額が見えるようになります。上限がない契約は、事業が大きく成功したときに、受け取る側と払う側の双方にとって想定外の額になります。

計算の基礎

改訂前原案:営業利益に基づく(算定方法の定めなし)。
改訂後修正版:営業利益の算定方法と、事業に係る費用の配賦方法は、甲乙が協議の上、別途書面で定める。

なぜ営業利益は、どの費用を事業に配賦するかで大きく変わります。配賦の方法を決めないまま対価を計算すると、費用の付け方の議論になります。

期間満了後の扱い

改訂前原案・修正版とも:支払期間の終了後も、製品の販売が続いている場合は、ロイヤリティの継続や条件の変更を誠実に協議する。
改訂後修正版は、累計額の上限に到達した場合も、同様に協議するとした。

なぜ期間や上限で一律に打ち切らず、協議の入口を残しています。ただし、協議が整わなければ、そこで終わる点は明確にしておきます。

会社が売却されたとき(M&A)の扱いも、事務所の書類では決めていました。製造・販売の側が、製品の事業や製品のブランドについて、事業譲渡、株式譲渡、会社分割などの支配権の移転を伴う取引をするときは、資金を提供した側に対して、次のいずれか高い額を一括して払うと定めています。提供した事業開発資金の数倍に相当する額、または未回収のロイヤリティの残高。ただし、上限は提供した資金の数倍に相当する額で、かつ、その取引での製品の事業や製品のブランドに係る譲渡の対価の一定割合を超えません。この額を払ったときは、ロイヤリティなどの金銭的な支払の義務は終了します。

修正版で加わったのは、譲渡の対価の一定割合という二重の上限です。資金を提供した側が、売却の機会に受け取れる額を厚くする設計の一方で、売却の対価を上回る額を払わせることはできない、という現実的な歯止めになっています。

契約が終わったときのサービスの継続も、共同開発の成果がサービスの場合には重要です。終了後に利用者がサービスを使えなくなる構造への備え(継続の期間、ソースコードなどの開示、移行計画、費用の分担)は、事務所の協業契約の例を業務提携・共同事業のページに挙げているので、ここでは、共同開発の契約に置く条項の形だけを示します。

条文例サービスの継続と移行(書き方の一例)

  1. 本契約が終了した場合、甲及び乙は、終了日の翌日から〇か月間(以下「継続期間」という。)、本サービスの利用者の権利利益を損なわないよう、本サービスの提供及び利用者への対応を、別途書面で定める水準により継続する。
  2. 乙は、継続期間において本サービスの継続に必要な範囲で、ソースコード、設定情報及び関連する文書を、甲に対して開示する。甲は、これらを継続期間における本サービスの運営の目的以外に使用してはならず、継続期間の満了後は直ちに返還し、又は消去する。
  3. 継続期間に要する費用は、甲乙の協議により、合理的な割合で分担する。

書き方の要点ソースコードの開示は、開発側にとって負担の大きい条項です。開示の目的の限定、開示後の利用制限、期間満了後の返還・消去を、同時に書いておく必要があります。

なお、収益を分けない技術提携の書き方は業務提携・共同事業のページにあります。

点検表と、起きがちなこと

共同開発契約書の点検

  • 役割の分担と、責任の分界を、工程ごとに書いたか。仕様の最終決定をする人を決めたか。
  • 開発資金は、返さない拠出か、貸付か、貸付から拠出への転換かを決めたか。各段階の金額が決まらないときの配分を書いたか。
  • 資金の使途と報告の方法を具体的に書いたか。
  • 開発が止まる理由ごとに、資金、成果、秘密の扱いを書いたか。止める判断を誰がするのかを決めたか。
  • 既存の技術、共同の成果、製品の名前や意匠の権利を、別々に書いたか。共有になる場合の実施と許諾の扱い(特許法73条の原則との違い)を書いたか。
  • 出願前の公開をしないこと、公開が必要な場合の同意の手続を書いたか。
  • 競業の禁止や改良の取扱いが、製品に近い範囲にとどまっているか。
  • 事業化後の対価の基礎(営業利益の算定方法、費用の配賦)、支払の頻度、累計の上限、会社の売却時の清算を書いたか。
  • 契約の終了後の、サービスの継続、ソースコードの開示、移行計画、費用の分担を書いたか。

共同開発の契約で、起きがちなこと

  • 「協議の上、書面で定める」とした各段階の金額が、協議のたびに合意できず、資金の提供が止まって開発が遅れる。
  • 資金の性質(拠出か貸付か)が書かれておらず、量産に至らなかったときに、返還を求められるかどうかで争いになる。
  • 既存の技術を「共同で開発する」という言葉の中に含めてしまい、どこまでが元の持ち主のものかが分からなくなる。
  • 営業利益に基づくロイヤリティを定めたが、費用の配賦の方法を決めておらず、毎月の計算で数字が合わなくなる。
  • 共同発明の特許を共有にしたが、自分の事業で使うこと、他社に許諾することの扱いを書いておらず、事業化の場面で動けなくなる。
  • 展示会で試作品を公開してから、出願をしようとして、新規性の問題が生じる。
  • 開発が止まったときの、試作品、データ、金型、設計図の帰属が書かれていない。
  • 改良発明を相手方に譲渡させる、あるいは独占的に許諾させる条項を置いたが、独占禁止法の観点から再検討が必要になる。
  • 契約が終わった後のサービスの継続が書かれておらず、利用者が突然サービスを使えなくなる。

共同開発の契約は、開発がうまくいっている間は静かなものです。しかし、資金が足りなくなったとき、仕様が変わったとき、事業化の判断が分かれたとき、会社が売却されるときに、初めて内容が問われます。そのときに読んで役に立つように、資金・権利・止め方・事業化・終わり方の5つを、それぞれ別の条に分けて書いておくことが、共同開発の契約を作る基本です。

よくあるご質問

共同開発の成果の特許は、共同で出願しなければいけませんか。

特許を受ける権利が共有のときは、各共有者は、他の共有者と共同でなければ特許出願をすることができません(特許法38条)。したがって、共同で発明した場合は、共同出願が原則です。契約書では、出願の費用の負担、出願の手続を進める人、出願後の維持の費用、一方が出願を望まないときの扱いを書いておきます。また、特許を受ける権利の持分の譲渡には他の共有者の同意が必要です(特許法33条3項)。

共有になった特許を、自分の事業で使うのに、相手方の同意は必要ですか。

特許法73条2項は、契約で別段の定めをした場合を除き、各共有者は、他の共有者の同意を得ないで、特許発明を実施できるとしています。一方、他人に通常実施権を許諾することや、専用実施権を設定することには、他の共有者の同意が必要です(同条3項)。ただし、契約で、自己の実施にも相手方の承諾を要するとすることはできるため、契約書の定めを確かめる必要があります。このような定めは、法律の原則より厳しいものになります。

開発資金を出す側が、量産に至らなかった場合の資金を取り戻せる書き方はありますか。

資金の提供の方法を、貸付の形式にしておく方法があります。貸付であれば、金銭消費貸借(民法587条)として返済の条件を決められます。仕様が確定し、量産の開始が決定したときに、貸付金の全部または一部を拠出に転換する、という書き方もあります。この方法であれば、量産に至らなかった場合は貸付のまま残り、返済を求めることができます。転換の条件を、誰が、いつ、何を基準に判断するのかも書いておきます。

共同開発の相手に、競合する製品の開発を禁止できますか。

契約で、共同開発の製品と同一または類似する製品の開発や販売を一定期間禁止することはよく行われます。ただし、禁止の範囲が広すぎると、有効性が問題になるほか、競争関係にある事業者の間では、独占禁止法上の問題も生じます。公正取引委員会の共同研究開発に関する指針は、共同研究開発のテーマ以外の研究開発の制限や、終了後の同一テーマの制限を、不公正な取引方法に該当するおそれが強い取決めとして整理しています。製品そのものに近い範囲に限り、相手方の本来の事業を除外する書き方が基本です。

共同開発のサービスが終了したら、利用者への対応はどうなりますか。

契約書に定めがなければ、契約の終了と同時にサービスの提供の根拠もなくなり、利用者が突然サービスを使えなくなるおそれがあります。契約の終了後も一定の期間(例えば6か月)、サービスの提供と利用者への対応を継続し、そのためにソースコードや設定情報を開示し、移行計画を作り、費用を分担する、といった定めを置きます。ソースコードの開示は、目的の限定、利用の制限、期間満了後の返還・消去と組にします。

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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への当てはめは、業務の内容や当事者の属性、契約に至った経緯によって異なることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきたコンサルティング契約書、顧問契約書、業務委託契約書、成果報酬・収益分配型の契約書、業務提携・共同事業の契約書、秘密保持契約書、PoCの覚書、各種の覚書、レビュー報告書、ヒヤリングシートなどを、個別の依頼者・相手方が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索(法令API)で確認しています(最終確認日:2026年10月20日)。参考: e-Gov法令検索 / 消費者庁 / 個人情報保護委員会 / 公正取引委員会 / 経済産業省

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