大企業・外資系の取引先とのコンサル契約:相手方の条件に、自社のひな形を合わせて直す

相手方の調達条件を前にしたとき、最初にやるべきことは、条文を怖がることではなく、自社のひな形の条項に一つずつ対応させ、ずれる点だけを交渉の議題にすることです。

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対照表で「全項目に対応する条項がある」と分かっても、資料全般か秘密情報かといった範囲の違いが、交渉の争点になります。

このページの要点

  • 相手方の条件を、自社の条文に一対一で当てはめる対照表をつくり、一致、ほぼ一致、差あり、不足に分ける。
  • 守る順番を決める。金銭のリスクより、知的財産の再利用のような事業の自由度のリスクの方が重い。
  • 注文書ごとに準委任型か請負型かを指定させ、指定がなければ準委任型とみなす。検収と契約不適合責任は請負型にだけ付ける。
  • 輸出管理、贈収賄防止、仲裁は自社の実情に引き直して点検し、相手方の購買約款は書面で採用しない限り効かないと書く。

結論:相手方の条件を一つずつ自社のひな形に当てはめ、ずれる点だけを交渉の議題にする

大企業や外資系の会社と取引するとき、契約書は相手方のひな形か、相手方の調達条件を満たすように作り直した自社のひな形になります。小さな会社がここで最初にやるべきことは、条文を読んで怖がることではなく、相手方の条件を自社のひな形の条項に一つずつ対応させる作業です。事務所が点検した、コンサルティングに関連するサービスを提供する受託側の会社の案件では、大手の顧客が示した調達条件の十数項目を、自社の基本契約の条文に当てはめました。結論は「すべての項目に対応する条項があり、構造的な不足はない」でした。そのうえで、交渉で実際に争点になる点は5つに絞られ、守る順番も決まりました。

このページは、その作業の進め方を、事務所の書類に即して説明します。準委任と請負の区分の一般論はコンサルティング契約の「形」のページにあります。ここで扱うのは、相手方の条件に合わせて自社のひな形をどう直すか、そして大企業・外資系との契約に特有に入ってくる条項(輸出管理、贈収賄の防止、仲裁、購買約款の排除)をどう読むかです。

  1. 相手方の条件を、自社のひな形の条文に一つずつ対応させる対照表をつくる。
  2. 「一致」の項目も含めて、範囲や基準の違いを探し、交渉で守る順番を決める。
  3. 業務類型、責任の上限、知的財産、輸出管理、贈収賄、紛争解決を、相手方の求めに合わせて条文に落とす。

条項対照表のつくり方:番号ではなく、中身で当てはめる

相手方の調達条件には、「契約不適合責任は知った時から最低1年間」「納入遅延は1日につき契約額の1000分の1」といった項目が、番号を付けて並んでいます。これを自社の基本契約の条文番号と一対一で結ぶのが、条項対照表です。事務所の報告では、各項目を「相手方の条件」「自社の条文」「一致、ほぼ一致、差あり、不足」の区分で整理し、差のある点だけを交渉の議題にしました。

条項対照表の例(大手の顧客の調達条件と、受託者のひな形)
項目相手方の条件(要約)自社のひな形差が出る点
契約不適合責任不適合を知った時から最低1年間請負型の業務だけ。知った日から1年以内に通知、検収完了日から2年で打切りほぼ一致。打切りの2年は自社に有利に働く
資料の提供と返還合理的な範囲で資料を提供する注文書に定める条件で必要な資料を提供。返還は秘密情報の条で定める一致
資料の管理提供資料を善管注意義務で管理・保管する秘密情報の取扱いの条に、善管注意義務を置く相手方は資料全般、自社は秘密情報に限る。資料が秘密情報の定義に入るかを確認
秘密保持の存続契約終了後も存続する開示日から10年、または契約・注文書の終了日から10年のいずれか遅い日まで自社の方が長く、期間も特定されている
個人情報秘密情報と一体にせず、独立の条項にする独立の条で、安全管理措置、目的外利用の禁止、再委託の事前承諾、存続を定める一致
特許権等帰属を定めるか協議で決める。共有ならパッケージ化・他社への販売に事前の承諾を要する注文書で定め、なければ協議。共有なら自己の事業での利用に事前の書面承諾日本法の原則より厳しい。自社の横展開が止まる
著作権新規成果物は相手方に帰属。従前の著作物と汎用プログラムは除く検収完了で帰属(著作権法27条・28条の権利を含む)。既存著作物は無償・非独占で許諾著作者人格権の不行使が自社にない。帰属の時点は自社が明示
監査重大な遅延・品質問題のとき、相手方の監査人が監査できる同じ場面に限り、事前の書面通知、営業時間内、営業秘密への配慮、守秘義務を負う監査人に限る一致。自社の方が歯止めがある。再委託先への拡張要求に注意
権利義務の譲渡事前の書面承諾なく、地位の承継、権利義務の譲渡、担保の提供をしない原則同じ。組織再編は通知のみ、金銭債権の譲渡は事前通知で可相手方が例外のない全面禁止を求めるかどうか
損害賠償の請求期間納品物の検収完了日の後も5年間損害と原因を知った日から2年以内、かつ検収完了日から5年まで二重の制限。2年が外されると5年に固定される
反社会的勢力判明したら直ちに解除でき、損害の賠償を請求できる催告なしの解除と損害の賠償請求を定める一致
遅延損害金納入が遅れたら、1日につき契約額の1000分の1。契約額が上限同じ式。ただし「自社の責めに帰すべき事由によるとき」に限る帰責の要件が外されると、不可抗力や相手方の原因でも発生する

「一致」と書いた項目でも、対象が資料全般か秘密情報かといった範囲の違いがあります。対照表では、一致の項目も、言葉の範囲まで読み合わせます。

対照表をつくるときに、先に確かめておくと作業が早くなる点があります。

ヒヤリングの問い条項対照表の作業で、先に確かめること

  • 問相手方の条件は、どの書類に書かれていますか(調達条件書、基本契約、注文書の裏面)

    理由条件の出どころで、交渉の余地が違う。基本契約の本文に入る条件と、注文書に付く条件を分けて対照する。

  • 問相手方の条件に、番号の飛んでいるものや、自社に関係しないものはありますか

    理由業種に合わない項目(物品の納入など)は「該当なし」と記録する。後で「確認していなかった」と言われないための記録になる。

  • 問自社のひな形は、どの版を基準にしますか

    理由社内に複数の版があると、対応する条文番号がずれる。基準版を一つに決め、版名を対照表に書く。

  • 問相手方は、自社が提示する条文の修正をどこまで受け入れますか

    理由初回の面談で、優先順位の高い論点(知的財産、責任の上限)を聞いておくと、守る順番を決めやすい。

交渉で守る順番:金銭のリスクより、事業の自由度のリスクが重い

対照表で差のある点を洗い出したら、すべてを守ろうとせず、順位を付けます。事務所の報告は、受託者のひな形について、次の順番で守ることを勧めました。

守る順番(事務所の整理)

  1. 知的財産の再利用の余地新規成果物の帰属と、共有になったときの自己利用の制限。自社のテンプレートや手法を、ほかの顧客に使えるかどうか。
  2. 損害賠償の請求期間の2年の通知制限これが外されると、検収後5年の責任が実質的に固定される。
  3. 遅延損害金の帰責要件「自社の責めに帰すべき事由」の限定が外されると、不可抗力や相手方の原因でも遅延損害金が生じる。
  4. 債権譲渡の例外金銭債権の譲渡(資金調達の手段)が、全面禁止になっても困らないかを自社の事情で判断する。
  5. 監査の範囲の限定再委託先への拡張や、予告のない監査を求められたとき、歯止めの文言を維持する。

報告の総括は、「金銭のリスクよりも、事業の自由度のリスクが重い契約」でした。賠償の額は、上限や期間で管理できます。一方、知的財産の再利用ができなくなると、横展開、プラットフォーム化、他社への販売といった事業の組み立て自体が止まります。

その後、実際の交渉が始まってから改訂された版では、譲った点と、守った点が分かれました。譲ったのは、新規の成果物の範囲です。報告書や分析結果など、相手方のために個別に作成・加工したものも、検収の完了をもって相手方に帰属するとしました。共有特許の自己利用に承諾を要する定めは維持し、付属書には著作者人格権を行使しない旨を加えました。

事務所の改訂例 知的財産の改訂(交渉の前後)

新規成果物の範囲

改訂前交渉前の自社ひな形:ソースプログラム、ドキュメントその他注文書に定める成果物が、検収完了で相手方に帰属する
改訂後交渉後:報告書、分析結果を含め、相手方のために個別に作成・加工したものも、検収完了で相手方に帰属する

なぜ相手方の最大の関心事に正面から応えて、交渉全体を前に進める譲歩。範囲を広げても、次の背景知的財産を守れる限り、事業は止まらない。

背景知的財産

改訂前交渉前:従前から保有する著作物と汎用プログラムを除く、という程度の記載
改訂後交渉後:自社や第三者が従前から持つもの、業務の中で汎用的に使える形で開発・蓄積したツール、テンプレート、分析手法、フレームワーク、ノウハウは自社に残す。相手方は、成果物に含まれる範囲で、目的内・無償・非独占の利用にとどまり、背景知的財産そのものを単独で第三者に提供・販売・許諾しない

なぜ渡す範囲を広げても、汎用の道具を渡さない。譲歩の代償として、残す範囲を文言で特定する。

残存知識

改訂前交渉前:定めなし
改訂後交渉後:相手方の機密情報を含まない一般的な知見、ノウハウ、スキル、経験は、自社が自由に利用できる

なぜ担当者の頭に残る一般的な知見まで縛られると、次の案件で何も使えなくなる。

背景知的財産と残存知識の一般的な書き方は成果物・知的財産のページで説明しています。ここで大事なのは、譲る範囲と守る範囲を、同じ交渉の中で、セットで決めることです。

注文書ごとに準委任型か請負型かを指定する:相手方の条件に合わせたひな形の直し方

大企業の調達条件は、物品やシステムの納入を想定して書かれているものが多く、「検収」「契約不適合責任」「納入遅延の遅延損害金」といった請負の言葉が並んでいます。コンサルティングの受託者が、これをそのまま受け入れると、準委任のはずの業務に完成の責任が入り込みます。かといって、すべてを「準委任」と言い張ると、ソフトウェアの改修のような請負的な業務を含む案件では、相手方が受け入れません。

事務所の案件では、当初は「本契約は準委任契約である」と一本化し、完成の保証を否定していました。報酬は月ごとの実施業務を基準にし、検収や承認を支払の条件にしていません。ところが、相手方の案件がソフトウェアの改修を含む請負的な作業だったため、基本契約の全体を業務類型で分岐させる書き方に改めました。注文書で「準委任型」か「請負型」かを指定させ、定義の条、業務内容の条、報酬の条、責任の条、解約の条を、それぞれ類型で分けます。

条文例業務類型の条文例(修正提案の形)

  1. 本件業務は、注文書に定める業務類型(準委任型業務又は請負型業務)に従って取り扱う。注文書に業務類型の定めがない場合は、準委任型業務とみなす。
  2. 準委任型業務は、善良な管理者の注意をもって遂行する義務を負い、特定の成果の完成を保証しない。準委任型業務において提供する成果物は、業務遂行の結果の報告であり、完成責任及び検収の対象としない。
  3. 請負型業務は、注文書に定める成果物を完成させる義務を負う。検収は納入から10営業日以内に行い、具体的な不適合の書面による通知がないときは、検収が完了したものとみなす。
  4. 請負型業務の成果物に契約不適合があるときは、その不適合を知った日から1年以内に書面で通知する。ただし、検収完了日から2年を経過した後は、契約不適合責任を負わない。
  5. 準委任型業務は、各当事者が30日前までの書面による通知で、将来に向かって注文書の全部又は一部を解約できる。請負型業務の解除は民法その他の法令に従い、既履行部分に対応する対価と合理的に発生した費用を支払う。

書き方の要点第1項の「定めがなければ準委任型」が要です。相手方の条件の多くは請負の言葉で書かれていますが、この条文があると、請負の条件が効くのは、注文書で請負型と指定した業務だけになります。

検収と契約不適合責任を請負型の業務にだけ付けるのは、民法の構造にも沿っています。請負では、種類または品質に関する契約不適合について、注文者がその不適合を知った時から1年以内に請負人へ通知しないと、追完の請求、報酬の減額、損害賠償の請求、契約の解除をすることができません(民法637条1項)。ただし、引渡しの時に請負人が不適合を知り、または重大な過失によって知らなかったときは、この期間の制限は適用されません(同条2項)。ひな形の「検収完了日から2年で責任を負わない」という打切りが、この場合にまで及ぶかは争いになり得ます。打切りの条文に、故意や重大な過失がある場合は別に扱う旨を添えておくと安全です。

損害賠償の請求期間にも、同じ考え方があります。債権の消滅時効は、権利を行使できることを知った時から5年、権利を行使できる時から10年です(民法166条1項)。ひな形が「損害と原因を知った日から2年以内、かつ検収完了日から5年まで」としているのは、この原則より短い期間を契約で置く設計です。相手方が「検収後5年」だけを残して「知った日から2年」を削る提案をしてきたときは、実質的に5年が固定されるため、守る順番の上位として扱います。

相手方の条件のうち、準委任型の業務には効かせたくないものを整理するときは、次の表が使えます。

相手方の条件を、類型ごとに受け止める
相手方の条件準委任型請負型
検収対象としない(結果の報告)納入から一定の営業日以内。期間内に具体的な不適合の通知がなければ完了とみなす
契約不適合責任適用しない。善管注意義務の違反の問題として扱う知った日から1年以内に通知。検収完了日から2年で打切り
遅延損害金適用しない。業務の遅れは協議で扱う自社の責めに帰すべき事由による遅れに限り、契約額を上限とする式で適用
解約30日前までの書面通知で将来に向かって解約民法に従う。既履行分の対価と費用を払う

責任の上限と、上限から外すもの:共有特許の自己利用もここで決まる

責任の上限は、注文書ごとに、相手方が当該注文書に関して受託者へ支払ったサービス料の総額とするのが、事務所の案件の基本形でした。例外として上限から外すのは、次の3つの場面です。

  • 秘密保持の条に重大な違反があった場合。
  • 知的財産権の故意による侵害。
  • 相手方の条件から加わった、詐欺、故意または重大な過失による死亡・人身障害、法令により責任制限が認められない範囲の損害。

上限から外すものを広げ過ぎると、上限の意味が薄れます。上限から外すのは、故意や重大な違反のように、受託者が管理できる行為に限るのがひな形の考え方です。逸失利益、営業機会の喪失、特別損害、間接損害は、上限から外す場面を除き、請求原因を問わず責任を負わないと書きます。責任の上限と成果の非保証の組み合わせは成果を保証しない条項のページ、秘密保持の賠償上限と存続期間の決め方はNDAのページで説明しています。

知的財産で特に注意したいのは、共有になったときの自己利用です。特許権が共有のとき、各共有者は、契約で別段の定めをした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明を実施できます(特許法73条2項)。一方、持分の譲渡や質権の設定には、他の共有者の同意が必要です(同条1項)。専用実施権の設定や他人への通常実施権の許諾にも同意が必要です(同条3項)。

共有特許の扱い:法律の原則と、相手方の条件の違い
行為特許法73条の原則相手方の条件(事前の承諾を要する)
自社が発明を実施する契約で別段の定めがなければ、同意なしに実施できる(2項)パッケージ化、他社への販売など、自己の事業での利用に事前の書面承諾を要する
持分を譲渡する、質権を設定する他の共有者の同意が必要(1項)同じ(原則どおり)
他人に通常実施権を許諾する他の共有者の同意が必要(3項)同じ(原則どおり)

2項は「契約で別段の定めをした場合を除き」と置いているため、相手方の条件は法的に有効であり得ます。ただし、法律の原則より厳しい制約であり、自社の事業の組み立てを縛ることを理解したうえで受け入れるかを判断します。

新規成果物の著作権を相手方に移すとき、著作権法61条2項は、譲渡の契約で27条または28条の権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定すると定めています。相手方の条件に合わせて移転するなら、27条・28条の権利を含めることを明記し、同時に、著作者人格権は譲渡できない権利(著作権法59条)のため、不行使の特約で整理することになります。自社のひな形では、検収完了で帰属する、既存の著作物と汎用プログラムは除く、と書いていました。

輸出管理、贈収賄の防止、制裁、仲裁:入ってくる条項の読み方

外資系や大企業との基本契約には、国内の中小企業どうしの契約では見かけない条項が入ります。事務所の案件では、輸出管理の遵守、不正利得の供与・受領の禁止、輸出管理法や経済制裁規制に違反する状態になったときの解除、紛争の段階的な解決と仲裁が含まれていました。これらを一般論で説明するのではなく、自社が何を点検すればよいかの問いに落とします。

ヒヤリングの問い輸出管理の条項を読むときの問い

  • 問自社が扱う技術やデータは、規制の対象になり得ますか

    理由外国為替及び外国貿易法は、特定の種類の貨物の設計・製造・使用に係る技術を特定国で提供する取引などに、経済産業大臣の許可を求めている(25条1項)。貨物の輸出にも許可の定めがある(48条1項)。自社が規制の対象か判断できるかを、最初に確かめる。

  • 問相手方が規制対象の技術資料を出すとき、どう受け渡しますか

    理由事務所の案件の条項は、相手方が管理対象の情報を提供する場合に、事前の書面による協議で管理方法やラベリングを決めるとし、受託者は、その情報を自社のシステムやメールサーバーで受領・保存・送信しないと定めていた。自社の環境が、その約束を守れる構造か確かめる。

  • 問再委託先や海外の拠点に、情報が渡る経路はありますか

    理由再委託先が海外にあると、提供自体が規制を受け得る。再委託の承諾の条項と輸出管理の条項を並べて読む。

  • 問規制に違反する状態になったとき、契約はどうなりますか

    理由事務所の案件では、輸出管理法や経済制裁規制に違反する状態になったことを、解除の事由に入れていた。業務の停止と、報酬の精算の定めもあわせて確認する。

別の案件では、軍民両用技術に当たり得る技術を扱う技術者の業務委託契約と秘密保持契約の点検で、輸出管理や国際制裁への対応条項が欠けている点を指摘しました。

贈収賄の防止は、「不正利得等の供与・受領の禁止」の条として置かれていました。内容は、次の3段で構成されています。

不正利得等の条の構成

  1. 表明保証契約の締結日現在、自社や役員・従業員・代理人が、政府関係者や民間の第三者に、現金、贈答品、接待、リベート、就業機会などの不適切な利益を供与・約束・要求・受領していない。
  2. 誓約契約期間中、贈収賄、腐敗行為、不当利益供与を目的とする行為を行わず、国内外の法令を遵守する。
  3. 通知と解除違反またはその疑いを認識したら速やかに書面で通知し、調査と是正に協力する。違反が重大または継続的なら、相手方は催告なしに解除できる。

日本の法律には、贈賄を罰する刑法198条(3年以下の拘禁刑または250万円以下の罰金)と、外国公務員等への不正の利益の供与等を禁じる不正競争防止法18条があります。外国の法令(米国や英国の腐敗行為防止の法律)を条文に挙げるときは、それらの法令が自社の事業に及ぶのかを知らないまま署名しない、というのが基本です。

点検の問いは、自社の接待・贈答の社内の取り決めが、相手方の基準より緩くないか、という一点に集約できます。社内の規程が整っていない小さな会社は、署名の前に、少なくとも自社の接待・贈答の実情を書き出します。表明保証は、署名の日に事実でなければならないためです。

紛争解決の3つの型

裁判所の専属管轄

最も単純

  • 第一審の裁判所を一つに決める(民事訴訟法11条。書面による合意が必要)
  • 手続が公開される
  • 相手方の本店に近い裁判所を指定されたら、費用と手間が増える

仲裁

非公開で、終局的

  • 仲裁合意は書面でする(仲裁法13条)
  • 仲裁合意の対象の紛争で訴えが起こされると、被告の申立てで却下される(同法14条)
  • 仲裁人の人数、機関、開催地、言語を決める必要がある

協議から仲裁の段階的手続

事務所の案件の型

  • 現場の窓口の協議、役員の協議、それでも解決しなければ仲裁
  • 差止め、仮処分、強制履行などの緊急の請求は、裁判所に直接できる例外を置く
  • 受託者の報酬の請求は、相手方が異議を述べない限り、段階的手続を経ずに請求できる

事務所の案件では、紛争解決の条項が、版によって変わりました。自社の初版は裁判所の専属的合意管轄(仲裁と調停は行わない)でしたが、相手方の案件向けの版では、段階的な協議のあとに、日本の商事仲裁機関による仲裁人3名の仲裁とする形に改めました。選ぶ前に、少額の請求を何度も受託者が行う場面を想像し、仲裁の費用が負担にならないかを確かめます。

相手方の購買約款を契約の内容にしない条項と、取適法への対応

大企業から注文書が届くと、その裏面や添付文書に、相手方の購買条件が印刷されていることがあります。受託者が、基本契約を結んだ後でも、注文書を受け取るたびに相手方の条件が入り込むと、基本契約で整えた責任の上限や知的財産の条項が崩れます。事務所の案件では、基本契約に、次の条文を置いていました。

条文例相手方の購買条件の排除と、文書の優先順位

  1. 注文書に記載された相手方の独自の購買条件、発注条件その他の一般取引条件は、本契約又は当該注文書において明示的に採用する旨の書面の合意がある場合を除き、拘束力を有しない。
  2. 文書間の矛盾は、次の順に優先する。(1)各注文書及びその添付文書(仕様書、見積書など)、(2)付属書、(3)本契約の本文、(4)製品に関連するドキュメント。
  3. 個別の注文書の条件が基本契約に優先するのは、基本契約を排除し、又は変更する旨と、その対象が明示された範囲に限る。

書き方の要点第1項と第3項が揃うと、相手方の注文書の裏面の条件は、書面で明示的に採用しない限り効かなくなります。契約の成立は、申込みに対する承諾で成り立ち、書面を要しない(民法522条)ため、書面の扱いは契約で決めておく必要があります。

日本の大企業が相手の取引では、2026年1月1日から名称と内容が変わった法律にも気をつけます。下請代金支払遅延等防止法は、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(通称、中小受託取引適正化法、取適法)になりました。契約書やひな形に旧法の名前が残っていないか、点検します。

取適法の対象かどうかは、取引の内容が法の定める類型に当たるか、委託する側と受ける側の資本金(または常時使用する従業員の数)の区分に当たるかで決まります。役務提供委託は、事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の全部または一部を、他の事業者に委託することです(2条4項)。大企業が、自社が使うコンサルティングの提供を受けるだけの取引は、この定義に当たらないことが多く、大企業がその顧客に提供する役務の一部を受託者に委ねる場合は、当たり得ます。委託事業者に当たる資本金・従業員数の区分は、2条8項に定められています。

対象になる取引では、製造委託等の代金の支払期日は、委託事業者が給付を受領した日(役務提供委託では、役務の提供を受けた日)から起算して、60日の期間内で、できる限り短い期間内に定めなければなりません。この起算は、検査をするかどうかを問いません(3条1項)。遅延したときの遅延利息は、公正取引委員会規則で定める率です(6条1項)。取適法の対象外の取引でも、支払期日を締め日と支払日でどう書くかは報酬設計のページの考え方が使えます。

事務所の改訂例 支払期日の基準(取適法への対応)

起算点

改訂前自社の基本契約の当初の版:請求書を基準にして支払期日を定める
改訂後改訂後:準委任型は当月の役務提供の完了日、請負型は納入日を給付の受領日とし、受領日から60日を超えない期間内に支払う。請求書の発行や到達の時期は、起算に影響しない

なぜ法律の起算点は、請求書ではなく給付の受領である。検査の完了を基準にすると、検査が長引くだけ起算点が後ろにずれ、60日を超えるおそれがある。

起きがちなこと

大企業・外資系との契約で起きがちなこと

  • 相手方の条件を読んだだけで「だいたい同じ」と判断し、範囲の違い(資料全般か、秘密情報か)に気づかないまま署名した。
  • 知的財産の条項を後回しにして、金額と納期を先に詰め、最後に共有特許の自己利用の制約が事業の組み立てを縛ると分かった。
  • すべての業務を準委任として書いたのに、注文書に請負の言葉が入り、検収と遅延損害金の請求を受けた。
  • 「知った日から2年」の通知期間の制限を、交渉の終盤に譲ってしまい、責任が検収後5年に固定された。
  • 贈収賄防止の表明保証に、自社の接待・贈答の実情を確かめずに署名した。
  • 注文書の裏面の購買条件を排除する条項がなく、基本契約で整えた責任の上限が、注文書ごとに崩れた。
  • 取適法の対象かどうかを確認せず、旧法の名前のままの条項を放置していた。

よくあるご質問

相手方から調達条件の一覧が届いたとき、まず何をすればよいですか。

自社の基本契約の条文に、一つずつ対応させる対照表をつくります。区分は、一致、ほぼ一致、差あり、不足の4つです。一致の項目も、対象の範囲や基準の違いまで読み合わせ、差のある点だけを交渉の議題にします。

準委任のコンサルなのに、請負の条件を求められたらどうしますか。

注文書ごとに業務類型を指定させ、指定がなければ準委任型とみなす条項を置きます。検収と契約不適合責任と遅延損害金は、請負型と指定した業務にだけ効かせます。

成果物の著作権を相手方に渡すと、自社の道具が使えなくなりませんか。

新規の成果物の範囲は広げても、自社や第三者が従前から持つもの、汎用的に使える道具、テンプレート、分析手法は自社に残すと書きます。担当者に残る一般的な知見を自由に使える残存知識の条項も併せて置きます。

輸出管理や贈収賄防止の条項は、小さな会社でも署名してよいのですか。

署名してはいけないわけではありません。自社の技術やデータが規制の対象になり得るか、自社の接待・贈答の実情が表明保証に耐えるかを、署名の前に確かめることが前提です。確認できない部分は、条項を限定するか、削る交渉をします。

紛争の解決は、裁判と仲裁のどちらがよいですか。

立場と紛争の規模で変わります。仲裁は非公開で終局的ですが、機関の費用と人数の負担があります。協議から仲裁への段階的な手続にして、差止めなどの緊急の請求と受託者の報酬の請求は裁判所へ直接できる例外を置く型もあります。

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