このページの要点
- 探索・通訳・出張同行は、いずれも準委任。取引先との契約を結ぶ権限は与えないと一文で明記する。
- 成果物は渡す物(候補先リストなど)で定義し、面談の実現と成約は含めない。報酬は「別途協議」のままにしない。
- 海外出張は、事前の書面承諾・上限・外貨の換算・保険・渡航の判断の置き場所を決める。現地での不正な利益の供与は禁じる。
- 海外の取引先の担当者の個人データを外国にある第三者に渡すときは、個人情報保護法28条の道を選ぶ。準拠法・時差・通貨も一文ずつ書く。
結論:海外の仕事を含むコンサルは、「探す」「訳す」「行く」を別々に定義し、費用と責任の線を先に引く
海外の販路開拓を手伝う、海外との商談で通訳をする、現地への訪問に同行する。この三つは、一つの契約書に並べて書かれることが多い仕事です。いずれも、売上や契約の成立といった結果を約束するのではなく、専門家として事務を処理する「準委任」の形で組むのが通常です。準委任とは、法律行為でない事務の委託をいい、委任の規定が準用されます(民法656条)。準委任の基本的な書き方はコンサルティング契約書の「形」のページで扱っています。
ただし、海外の仕事が加わると、国内のコンサル契約にはない論点が重なります。このページでは、次の4点に絞って説明します。
- 業務と成果物の特定:現地の候補先を探す、関心を確かめる、面談を設けるという活動を、どこまで書けば足りるか。
- 報酬と経費の線:固定か、面談の件数か、成約への連動か。渡航費・宿泊費・保険を誰がどこまで持つか。
- 誤訳や助言の責任の範囲:結果ではなく注意義務で書き、賠償の上限をどう置くか。
- 国境をまたぐ前提:海外の取引先担当者の個人情報、準拠法と裁判所、通貨と時差。
素材にしたのは、事務所が受注者(業務を受ける側)の立場で見てきた、海外市場での卸先・工場の開拓とWEB面談の設定を受託する業務委託契約書(修正版を重ねたもの)と、英語通訳・プロジェクトへの助言・海外出張時の同行通訳を受託する業務委託契約書です。個別の国の法令の中身や、渡航先ごとの事情はこのページでは扱いません。契約書の側で「誰が確認し、誰の責任にするか」を決める話に絞ります。
| 業務 | 受注者が約束すること | 成果物にあたるもの | 報酬の型 | 最初に決めること |
|---|---|---|---|---|
| 販路開拓(探索と接触) | 候補先を調べ、関心を確かめ、面談の機会を設ける活動を、善良な管理者の注意をもって行うこと | 候補先リスト、関心確認の記録、面談の日程調整の記録 | 月額の固定、面談設定の件数に応じた単価、成約に連動する成功報酬のいずれか、またはその組み合わせ | 対象の商品・地域・業種、接触してよい方法、契約を結ぶ権限がないこと |
| 通訳・助言 | 決められた会議や場面で誠実に通訳し、一般的な助言をすること | 原則なし。議事メモや訳文を出すなら別に定める | 時間単価または月額 | 対象の会議の種類と言語、助言の範囲、最終判断をする人 |
| 海外出張への同行 | 指定された行程に同行し、通訳などの業務を行うこと | 原則なし | 稼働日数に応じた額、または月額に含める | 渡航の可否の判断、費用の負担、保険、行程を変えるときの手続 |
表の右端の「最初に決めること」が空白のまま始まると、後の章で見る費用と責任の争いの原因になります。
販路開拓で特に注意したいのは、売買契約を結ぶこと自体を受注者の仕事にしないことです。取引先との契約を発注者に代わって結ぶ権限を受注者に与える形にすると、法律行為を委ねる「委任」(民法643条)の性格が濃くなり、結んだ契約の責任が受注者側に及ぶおそれが出ます。紹介と面談の設定にとどめる場合は、「受注者は、発注者を代理して契約を締結し、または契約の条件を確定する権限を有しない」と一文を置きます。
販路開拓の成果物:作業の名前を成果物の欄に並べない
海外市場での卸先・工場の開拓を受託する契約書の案では、本業務が三つの項目で特定されていました。現地の工場のリストアップ、対象機器への関心の確認、WEB面談の取付けです。業務の特定としては分かりやすい書き方です。ところが成果物の条を見ると、同じ三つの項目の名前がそのまま「成果物」として並び、末尾に「その他一切の資料を含む」とありました。ここに三つの問題が出ます。
| 点検の項目 | 案に見られた書き方 | 起きること | 書き方の方向 |
|---|---|---|---|
| 成果物の中身 | 作業の名前(リストアップ、関心の確認、面談の取付け)が成果物として並ぶ | 作業は成果物ではないため、何を渡せば完了なのかが決まらない | 渡す物を「候補先リスト(社名・所在地・取扱品目・窓口部署)」「関心確認の記録(日時・応答・次の対応)」「日程調整の記録」と書く |
| 面談の実現 | 「瑕疵があれば無償で修正または再作成」と定めている | 面談が実現しなかったことが成果物の瑕疵と主張される | 面談の実施と成約は成果物に含めないと書く。是正は「相当の期間を定めた再実施の求め」にとどめる |
| 「その他一切の資料」 | 範囲を限定しない包括の表現 | 受注者の作業メモや内部資料まで権利の対象になる | 発注者に渡す資料を列挙し、受注者の内部資料は含まないと書く |
「瑕疵」は、完成した物の欠陥を意味する、請負で使われてきた言葉です。準委任の契約に持ち込むと、完成を約束する契約だったかのような読み方の足がかりになります。この点は契約の「形」のページで詳しく扱っています。
成果物の権利も、同じ案の中で決めておく項目です。案では、成果物の所有権とその関連の権利をすべて発注者に帰属させ、受注者は成果物を第三者に提供すること、自己または第三者の利益のために利用すること、改変・再利用・再配布することを、事前の書面の承諾なしには行えないとしていました。特定の発注者のために作った候補先リストを他の依頼者に流用しないのは当然ですが、受注者が従前から持つ調査の手順、データベース、一般的な知見、公開情報の整理の方法まで再利用が禁じられると、受注者は同じ分野の次の仕事ができなくなります。発注者の依頼に基づいて作った成果物の権利は発注者に渡し、受注者が従前から持つものと、特定の発注者に固有でない知見は受注者に残す、という分け方が現実的です。この分け方は成果物・ノウハウ・知的財産のページで3つの型として整理しています。
権利を発注者に譲渡する場合には、著作権法の特別なルールにも注意が要ります。著作権を譲渡する契約で、翻案権等(27条)と二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(28条)が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定されます(同法61条2項)。発注者に全部を渡す設計なら「著作権法27条及び28条に規定する権利を含む」と書き、受注者に残すなら、その旨を明示します。
事務所の改訂例 広報素材の使用許諾(海外市場の卸先探しの受注契約書)
発注者による広報素材の使用
なぜ無償・無期限・全媒体の許諾に、異議の期間が7営業日しかないと、現地の取引先との関係で表に出せない情報が出回っても止められない。許諾の対象から外す情報を、受注者が事前に指定できる形にした。
広報素材の使用は成果物の権利とは別の論点ですが、海外の販路開拓では、現地の取引先の名前や面談の様子が素材に含まれやすいため、同じ契約書の中で点検します。
報酬と直接取引の禁止:「別途協議」のままにしない
受注契約書の案では、委託料が「甲乙間で別途協議の上、書面または電子メールにより合意した金額」とされていました。金額が決まらないまま始めると、請求の根拠そのものが不安定になります。委任の規定では、受任者は特約がなければ委任者に対して報酬を請求できないのが原則だからです(民法648条1項)。準委任にもこの規定が準用されます。報酬を後で決めるなら、少なくとも決め方(見積書の承認、月額の基準など)と、決まるまで業務を始めない旨を書く必要があります。
販路開拓の報酬の3つの型
固定の月額
探索と接触の活動そのものへの対価
- 受注者は成果に関係なく安定して受け取れる
- 発注者は面談の質が低くても支払う
- 活動の量(週ごとの接触数、報告の頻度)を別紙で決めておく
面談設定の単価
設定した面談の件数に応じる
- 「設定」が日程の確定か、実施かを定義する
- 先方の欠席・日程変更の扱いと、同じ会社の重複の数え方を決める
- 発注者の都合で面談できなかった場合も、受注者の活動分を払うかを決める
成約への連動
取引の成立に応じる成功報酬
- 成約の定義と、対象の売上の範囲を決める
- 契約終了後の取引に及ぶ期間(テール)を決める
- 発注者が受注者を介さず取引を進めても報酬が発生するようにするかを決める
支払の遅れに備える条項も確認します。案では、支払期限を発注者の月次の締め処理の完了後、翌月末日までとし、遅れたときは年14.6%の遅延利息を定めていました。利率を契約書に書かなかった場合は、法定利率(民法404条。年3%を基準に、3年ごとに見直されます)によるのが原則です。約定利率が法定利率を超えるときは約定利率が優先します(同法419条1項)。
もう一つ、受注者が負う義務として置かれやすいのが、直接取引の禁止です。案には、受注者が「発注者の取引先(お客様を含む)と直接契約を結ばないこと」という遵守事項がありました。発注者の目的は、紹介した取引先を受注者に取られないことでしょう。ただ、文言のままでは範囲が広すぎます。
条文例直接取引の禁止の範囲を特定する書き方
- 乙は、本契約の有効期間中、甲が本業務により紹介を受けた取引先(以下「紹介先」という。)との間で、本契約の対象商品に関し、甲を介さずに売買その他の取引をしてはならない。
- 前項の「紹介先」は、乙が甲に提出した候補先リストに記載され、かつ甲が書面で紹介先として確認した者に限る。
- 第1項の禁止は、本契約が終了した日から○か月を経過した日に終了する。
- 甲が書面で承諾した場合、および乙が本契約とは無関係に従前から取引をしている者との取引には、第1項を適用しない。
書き方の要点禁止の対象を「紹介先」に絞り、対象商品・期間・例外を書く。範囲が広すぎる禁止や期間のない禁止は、受注者の営業の自由を過度に制限するものとして、民法90条(公序良俗)により効力が否定される余地が生じます。発注者にとっても、効力が争われない範囲で書いておくほうが確実です。
業務提携の側から見た直接取引の禁止の位置づけは、業務提携・共同事業のページの「競業避止・直接取引の禁止・終了後の扱い」と合わせて読むと、役割の分担のとき何を禁じるかが分かりやすくなります。
海外出張:費用の承認と上限、安全の判断の置き場所
英語通訳と海外出張への同行を受託する契約書では、経費の扱いが次のように分けられていました。国内での通常の業務遂行に必要な通信費・交通費などは受注者の負担とし、発注者の特別の依頼で生じた費用は事前の書面(電子メールを含む)の承諾を得て発注者が実費を負担する。海外出張の交通費・宿泊費・その他の合理的な費用は、発注者の事前の承諾を前提に発注者が負担し、受注者は出張の終了後、精算書と領収書を添えて速やかに精算する。そして、精算の詳細な手続と費用の上限は「別途協議のうえ決定する」としていました。
骨格は整っていますが、上限が後回しになっています。海外出張は金額が大きくなりやすく、「事前の承諾」と「合理的な費用」という二つの言葉の中身を出張のたびに争うことになります。項目ごとに決めておくことを表にまとめます。
| 項目 | 決めておくこと | 空白だと起きること |
|---|---|---|
| 航空券・鉄道 | 座席の等級の上限、予約の主体、変更・取消しの手数料の負担者 | 高額な座席の費用を巡って争いになる。発注者の都合で変更しても手数料が受注者の負担になる |
| 宿泊 | 1泊あたりの上限、場所の指定の有無 | 「合理的」の範囲が人によって異なる |
| 現地の移動・警備 | 手配の主体、費用の負担者 | 安全のために必要な費用を誰が持つかが現地で決まらない |
| 保険 | 加入する保険の種類(傷病・賠償・緊急搬送など)、加入の主体と費用 | 事故のときに補償の手当てがなく、責任の押し付け合いになる |
| ビザ・入国書類 | 取得の責任者、費用の負担者、取得できなかったときの扱い | 渡航できなかった場合の報酬や費用が決まらない |
| 外貨の換算 | 換算の基準日と出典、カード手数料の負担 | 精算額が数円単位で食い違い続ける |
| 出張中の稼働 | 出張日の報酬の扱い(月額に含むか、日額を加算するか) | 移動日や待機日が報酬の対象かで争いになる |
出張を承認から精算まで進める流れ
- 行程案と費用の見積りを提示する受注者が、行程、同行する日数、項目ごとの費用の見積りを出す。
- 発注者が書面で承諾する電子メールでよい。承諾した上限額を、出張ごとに書面に残す。
- 渡航の可否を、公的な情報で確かめる外務省が発表する海外安全情報などを確認する。確認する人と、判断の基準をあらかじめ決める。
- 行程を変えるときは、その場で連絡し承諾を得る現地で追加の移動や宿泊が必要になった場合の連絡の手段と、承諾が間に合わない場合の暫定の扱いを決める。
- 帰国後、決めた日数以内に精算書と領収書を出す外貨の換算の基準日と出典を精算書に書く。
- 発注者が確認し、期日までに支払う確認に異議がある項目は、異議のない項目を先に支払う。
安全の判断をどこに置くかも決めておく必要があります。危険のある地域への渡航は、発注者が日本から行程を指示したとしても、現地にいる受注者が最終的に危険を引き受けることになります。準委任は雇用ではなく、受注者が独立した立場で事務を処理する契約ですから、発注者が行動を命じる関係にはありません。契約書には、渡航の可否と行程の変更について、受注者が公的な情報に基づいて安全上の理由があると合理的に判断したときは、発注者に通知のうえ、中止、変更または退避ができ、そのことで債務不履行の責任を負わないと書いておくと、現地での判断が早くなります。
条文例海外出張の費用と渡航の判断
- 乙は、甲が指定する海外出張について、行程および項目ごとの費用の見積りを甲に提示し、甲の書面(電子メールを含む。)による承諾を得た範囲で、出張に要した費用の実費を甲に請求することができる。
- 前項の費用の上限は、出張ごとに甲乙が書面で定める。上限を超える費用は、甲が事前に書面で承諾した場合に限り、甲の負担とする。
- 外貨で支払った費用は、支払日の○○(出典を指定する。)の換算レートにより円貨に換算して精算する。
- 乙は、出張の前および出張中、外務省が発表する海外安全情報その他の公的な情報を確認する。乙は、安全上の理由があると合理的に判断したときは、甲に通知のうえ、出張の中止、行程の変更または退避をすることができ、これにより本契約上の責任を負わない。
- 乙は、出張に関して、第三者に対し、現地の公務員その他これに準ずる者に不正の利益を供与し、または供与を約束してはならず、そのための費用を甲に請求しない。
書き方の要点第4項は、安全の判断を最終的に現地にいる人に置く規定です。第5項の背景は次の段落で説明します。
第5項は、不正競争防止法18条(外国公務員等に対する不正の利益の供与等の禁止)を意識した定めです。同条は、国際的な商取引に関して営業上の不正の利益を得るために、外国公務員等にその職務に関する行為をさせる、またはさせないことなどを目的として、金銭その他の利益を供与し、またはその申込みもしくは約束をすることを禁じています。「外国公務員等」には、外国の政府や地方公共団体の公務に従事する者だけでなく、政府が過半の議決権を直接に所有し、または役員の過半を任命している事業者で特に権益を付与されているものの事務に従事する者なども含まれます(同条2項)。現地の工場や窓口が、政府が過半を出資し、または役員の過半を任命していて、特に権益を付与されている事業者である場合は、その事務に従事する人も外国公務員等に当たりうるため、会食や謝礼が思わぬ問題になることがあります。そこで、現地での第三者への金銭の支払いや接待は、発注者の事前の承諾なく受注者が独断で行わない、と書いておく意味があります。
通訳・助言の責任:結果ではなく注意義務で書き、上限と除外を置く
通訳の誤りは、商談の内容によっては大きな損害に結び付きます。数量、金額、納期、条件の聞き違いがそのまま合意の内容とされてしまうこともあります。ただ、準委任の受注者が負うのは、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務です(民法644条)。通訳が完全でなかったこと自体が義務違反になるわけではなく、通常求められる注意を欠いたかどうかが問われます。契約書では、この点を次の4つで補います。
- 通訳の限界の確認:同時通訳か逐次通訳か、専門用語の事前資料、聞き取れなかった発言は確認してから訳す義務と、発注者が資料を事前に渡す協力。
- 重要な合意の書面確認:数量、金額、納期、条件など契約上重要な事項は、通訳に頼らず書面で確認し、通訳の内容は参考であると書く。
- 助言と通訳の分離:通訳として訳す発言と、受注者自身の意見は区別する。助言は一般的な助言にとどめ、法律や会計などの資格を要する判断は含めない。
- 賠償の範囲と上限:次の表のとおり、立場によって適切な型が違う。
| 型 | 内容 | 受注者から見た評価 | 発注者から見た評価 |
|---|---|---|---|
| 故意・重過失のみ | 故意または重大な過失による通常損害に限って賠償する。間接損害、逸失利益、営業機会の損失などは負わない | 最も負担が軽い。通訳の契約では、この型が置かれていた | 軽い過失による損害が、手当てされない。重要な商談では受け入れにくい |
| 上限つきで責任を負う | 軽い過失も責任を負うが、直近12か月の報酬額など上限を置く | 受注者の事業規模に合った上限なら受け入れやすい | 上限が低すぎると損害に追い付かない。故意・重過失は上限から除く |
| 上限なし | 上限を置かない | 通訳や助言の報酬に見合わない責任を負うおそれがある | 最も保護が厚いが、受注者は受けにくく、保険の手当てが要る |
どの型でも、故意や重大な過失まで免責する条項は、効力が否定される余地があります(民法90条)。上限を置く場合は、故意・重過失を上限の対象から除くのが一般的です。秘密保持の違反を上限に含めるかどうかは秘密保持・個人情報・生成AIのページで立場別に整理しています。
通訳の受託契約では、成果物の扱いも決めておきます。通訳契約の案は、本業務が人的・知的サービスの提供を目的とするもので、報告書その他の成果物の作成・提出は契約上の義務としないと定め、発注者の依頼で成果物が必要になったときは、内容・形式・納期を別に協議するとしていました。そのうえで、受注者が作った資料や訳文の知的財産権は受注者に帰属し、発注者には社内利用を目的とする非独占・譲渡不能・再許諾不可の使用権を与える形でした。著作権法27条・28条に基づく権利を含む旨も書かれていました。議事メモや訳文を出す業務が加わるなら、この型を出発点に、納期と範囲を決めます。契約書や仕様書など、それ自体が法的な効力を持つ文書の翻訳は、通訳の契約とは別の契約にしたほうが、責任の範囲がはっきりします。
報酬の支払についても、確認しておくことがあります。受注者が個人事業主や、代表者のほかに役員も従業員もいない一人の会社である場合は、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)の対象になりえます。通訳や助言は役務の提供の委託にあたります。同法3条は、業務委託事業者に対し、業務委託をした直後に、給付の内容、報酬の額、支払期日などを書面または電磁的方法で明示することを求めています。4条は、従業員を使用するなどの特定業務委託事業者に対し、報酬の支払期日を役務の提供を受けた日から起算して60日の期間内でできる限り短く定めることを求めています。受注者が法人でも従業員を使っていれば対象外ですが、個人の通訳者に直接委託する場合は、契約書がこの明示を兼ねるように作ります。
国境をまたぐ前提:個人情報、準拠法、裁判所、通貨と時差
最初に個人情報です。候補先リストに載せる海外の取引先の担当者の氏名、役職、メールアドレス、電話番号は、生存する個人を識別できる情報として、国籍に関係なく個人情報にあたります。受注者が日本国内でこれを取り扱うなら、日本の個人情報保護法の義務の対象です。リストをデータベース化すれば「個人データ」になります。
問題になるのは、それを外国にある第三者に渡す場面です。たとえば、受注者が現地の調査員や通訳を使い、その人に担当者の情報を渡す場合です。個人情報保護法28条は、外国にある第三者に個人データを提供するときの規律を定めています。個人情報保護委員会のガイドライン(外国にある第三者への提供編)も、外国にある事業者にデータの入力を委託する場合を、外国にある第三者への提供の典型例として挙げています。次の表の3つの道のいずれかが必要です。
| 道 | 根拠 | 契約書での手当て |
|---|---|---|
| 本人の同意を得る | 法28条1項・2項、施行規則17条。同意を得る前に、外国の名称、その外国の個人情報保護制度の情報、提供先が講ずる措置の情報を本人に提供する | 同意を取る担当者と取り方、提供する情報の内容を、誰が、いつまでに用意するかを決める |
| 提供先が基準に適合する体制を整えている | 法28条1項かっこ書、施行規則16条。契約等で法の趣旨に沿った措置の実施が確保されている、または国際的な枠組みの認定を受けている。提供後は、措置の実施状況の定期的な確認などが必要(法28条3項、施行規則18条) | 現地の調査員・通訳との契約に、利用目的の限定、安全管理、再提供の禁止、返還・消去、報告を入れる |
| 同等の水準にあると定められた外国に提供する | 法28条1項かっこ書、施行規則15条。基準を満たす外国として個人情報保護委員会が定めるもの | 対象の外国かどうかを、渡す時点で確認する担当を決める(国名はこのページでは書かない) |
この規律は、委託として個人データを渡す場合にも及びます。法27条5項1号は、委託に伴う提供を受ける者を「第三者に該当しない」と定めますが、それは27条の規律の適用についての定めです。28条は、外国にある第三者への提供を別に規律しています。したがって、発注者のために現地の調査員に個人データの入力を任せる、現地の通訳に参加者の名簿を預ける、といった運用があるなら、再委託の条項とあわせて、上の3つの道のどれを取るかを決めておく必要があります。再委託を禁止し、発注者の書面による同意があるときに限る形は、受注契約書の案にもありました。再委託先が外国にある場合は、その承諾の条件に、上の手当てを加えます。
受注者のプライバシーポリシーも、同じ観点で点検します。取得する個人情報の種類、利用目的、第三者提供の条項が、リストの作成と発注者への提供という実際の運用に合っているか、外国にある第三者への提供を行う場合の記載があるかを確かめます。個人情報の取扱いを受託者として預かる場合の定め方は、秘密保持・個人情報・生成AIのページで扱っています。
次に、準拠法と裁判所です。当事者の一方が海外にいる、または業務が海外で行われる契約では、どの国の法律で読むのかが争点になりえます。法の適用に関する通則法7条は、法律行為の成立と効力は、当事者が行為の当時に選択した地の法によると定めています。どの国の裁判所に訴えるかについても、当事者の合意で定めることができ、その合意は一定の法律関係に基づく訴えに関するもので、かつ書面でする必要があります(民事訴訟法3条の7第1項・2項)。電磁的記録でした合意は書面とみなされます(同条3項)。通訳の受託契約は、日本の法令を準拠法とし、第一審の専属的合意管轄裁判所を発注者の所在地に近い地方裁判所にしていました。なお、この契約の当事者はいずれも日本国内の事業者です。現地の取引先との間の契約は、発注者がその相手と結ぶもので、受注者は当事者になりません。したがって、受注契約の準拠法と、現地の取引先との契約の準拠法は、別の問題として扱います。
最後に、通貨、時差、言語です。国内の事業者どうしで、円建て、日本国内の口座への振込と決めておけば、為替の論点は報酬の面では起こりません。経費だけが外貨で発生するため、前の章の換算ルールが必要になります。時差は、報告の期限、面談の日時、通知の到達の基準の「日」がどの国の日なのかに影響します。期限や通知の時刻は日本時間とするなど、一文を置きます。言語は、契約書と成果物の正本を日本語にするか、訳文を作る場合にどちらを優先するかを決めます。海外在住の受注者と契約を結ぶ場合の準拠法・通貨・時差の考え方は、基本的に同じです。
事務所が最初に確かめること
ヒヤリングの問い海外販路開拓・通訳・海外出張を伴うコンサル契約
問探す対象と、接触してよい方法を教えてください(商品、地域、業種、メールや面談など)。
理由業務の特定と、成果物の定義の基礎になる。接触の方法は、個人情報の取得の仕方にも関わる。
問成果は何で測りますか。活動量、面談の件数、成約のどれですか。
理由報酬の型と、面談の「設定」「実施」の定義を決めるため。
問集めた候補先の情報は、発注者だけが使いますか。受注者が他の案件で使うことはありますか。
理由成果物の権利の分け方と、再利用の禁止の範囲を決めるため。
問現地で使う調査員や通訳はいますか。その人に、担当者の氏名や連絡先を渡しますか。
理由再委託の承諾の条件と、外国にある第三者への個人データの提供の手当てを決めるため。
問海外出張はありますか。回数、行程、費用の上限の目安、加入している保険を教えてください。
理由事前の承諾と上限、保険、渡航の判断の置き場所を決めるため。
問通訳の場面は、商談ですか、社内会議ですか。通訳したことが契約上の合意になる場面はありますか。
理由重要な事項の書面確認と、賠償の上限の型を決めるため。
問受注者は個人または一人の会社ですか。
理由フリーランス・事業者間取引適正化等法の明示と支払期日の定めが必要になるかを判断するため。
起きがちなこと
海外の仕事を含むコンサル契約で起きがちなこと
- 成果物の欄に作業の名前が並び、面談が実現しなかったことが「成果物の瑕疵」だと主張される。
- 委託料が「別途協議」のままで始まり、見積りも承認もないまま稼働し、請求の段階で金額が合意に至らない。
- 直接取引の禁止の範囲が「取引先」としか書かれておらず、受注者の従前からの取引先まで禁じられていると言われる。
- 海外出張の費用の上限が決まっておらず、「合理的な費用」の中身が帰国後の精算で争いになる。
- 危険のある地域の行程を発注者が日本から指示し、現地の受注者が判断を求められても、中止や退避の定めがない。
- 現地の調査員に担当者の氏名と連絡先を渡したが、外国にある第三者への提供の手当てをしていなかった。
- 通訳の誤りで損害が出たとき、賠償の上限が決まっておらず、また重要な数量や金額が書面で確認されていなかった。
ここまでの論点は、いずれも「海外だから特別な契約になる」ものではなく、国内のコンサル契約の論点に、費用と責任の線を一段細かく引いたものです。成果物の権利は成果物・ノウハウ・知的財産のページ、成功報酬の設計は成功報酬のページ、中途解約の精算は中途解約・更新・精算のページと合わせて確認すると、契約書全体の整合が取れます。
本ページで引用した民法、著作権法、不正競争防止法、個人情報保護法とその施行規則、法の適用に関する通則法、民事訴訟法、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の条文は、e-Gov法令検索で2026年10月20日に確認しました。個人情報保護委員会のガイドライン(外国にある第三者への提供編)の記載も、同日に公表されている本文で確認しました。
よくあるご質問
海外の取引先を探す業務は、準委任と請負のどちらで作りますか?
探索と接触の活動は準委任で作るのが通常です。民法656条は、法律行為でない事務の委託に委任の規定を準用すると定めています。候補先リストのように渡す物を成果物として定める場合でも、面談の実現や成約を成果物の完成に含めないことを書きます。取引先との契約を発注者に代わって結ぶ権限を受注者に与えない場合は、その旨を一文で明記します。
委託料を「別途協議」としたまま業務を始めてもよいですか?
避けるべきです。委任の規定では、受任者は特約がなければ報酬を請求できないのが原則です(民法648条1項)。金額が決まらない場合でも、見積書の承認や月額の基準など決め方を書き、決まるまで業務を始めない、または暫定の額を定めておきます。
海外出張の費用は、どの程度まで契約書に書いておくべきですか?
事前の書面による承諾、出張ごとの上限、項目ごとの扱い(航空券の等級、宿泊の上限、保険、ビザ、外貨の換算)、変更・取消しの手数料の負担、帰国後の精算の期限を書いておきます。「合理的な費用」とだけ書くと、帰国後の精算で中身を争うことになります。
通訳の誤りで損害が出たら、通訳者は賠償責任を負いますか?
準委任の受注者が負うのは、善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務です(民法644条)。訳が完全でなかったこと自体ではなく、通常求められる注意を欠いたかどうかが問われます。契約書では、賠償の範囲を通常損害に限る、上限を置く、故意・重過失は上限から除く、といった型から立場に合うものを選び、重要な数量や金額は書面で確認すると決めておきます。
海外の取引先の担当者の氏名と連絡先を、現地の調査員に渡してよいですか?
調査員が外国にある第三者に当たる場合は、個人情報保護法28条の規律が働きます。本人の同意を得る、提供先が基準に適合する体制を整えている、同等の水準にあると定められた外国に提供する、のいずれかが必要です。委託として渡す場合も同様です。再委託の条項に、承諾の条件として、利用目的の限定、安全管理、再提供の禁止、返還・消去を入れておきます。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への当てはめは、業務の内容や当事者の属性、契約に至った経緯によって異なることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきたコンサルティング契約書、顧問契約書、業務委託契約書、成果報酬・収益分配型の契約書、業務提携・共同事業の契約書、秘密保持契約書、PoCの覚書、各種の覚書、レビュー報告書、ヒヤリングシートなどを、個別の依頼者・相手方が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索(法令API)で確認しています(最終確認日:2026年10月20日)。参考: e-Gov法令検索 / 消費者庁 / 個人情報保護委員会 / 公正取引委員会 / 経済産業省