技術顧問・技術指導の契約書:稼働、除外業務、競合、段階的な参画

技術者が企業に関わる形は、月額の顧問、期間を区切った指導、プロジェクトへの段階的な参画の3つに分かれ、形によって争いの中心がまったく違います。

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稼働を「目安」と書いたまま、超えたときの報告も扱いも書いていない顧問契約は、顧問料が固定のまま持ち出しだけが増えていきます。

このページの要点

  • 稼働の目安を置くなら、超えそうなときの報告と、追加で払うのか繰り越すのか、協議がまとまらないときは引き受けないのかを対で書く。
  • 図面、申請書類、現場への立会いなどの実作業は「除外業務」として切り出し、助言の採否の最終判断は委託者に置く。
  • 技術指導は、教える中身を回数・テーマで書き出し、同じ地域・同じ顧客層の申込みを断れる条項を置く。教わった技術の利用は縛らず、守る場所を別に置く。
  • 段階的な参画は、基本合意と個別契約の二層にし、後続の契約の義務は負わせない。委託者の都合で止まったときの通知と終了補償を書く。

結論:技術者が企業に関わる形は3つあり、形によって契約書の骨組みが変わる

建築、食品開発、製造、設計、ソフトウェア開発など、専門の技術を持つ人が企業から頼まれる仕事は、契約書の上では大きく3つの形に分かれます。毎月の相談に乗る「技術顧問」、期間を区切って技術を教える「技術指導」、新しいプロジェクトに数年かけて加わる「段階的な参画」です。どの形でも、多くの場合は法律上の「準委任」にあたります。準委任とは、法律行為ではない事務(調査、助言、会議への出席、指導など)を任せる契約で、民法656条により委任の規定が準用されます。受託者は「善良な管理者の注意」(その職業の人として通常求められる水準の注意。民法644条)を尽くして事務を処理しますが、結果の完成までは約束しません。準委任であることの書き方と、本体・別紙・見積書の優先関係は契約の形のページで説明していますので、ここでは技術者に特有の論点に絞ります。

3つの形では、争いの中心がまったく違います。月額の技術顧問では「毎月どこまで動くのか」と「助言が外れたときの責任」、技術指導では「教えた相手が競合になること」と「前払いの精算」、段階的な参画では「次の契約を結ぶ義務があるのか」と「会社の都合でプロジェクトが止まったときの扱い」です。同じ「技術コンサル」という名前の契約書でも、どの形かを決めずに雛形を埋めると、肝心の論点だけが抜け落ちます。

技術者が企業に関わる3つの形と、契約書の中心になる論点

月額の技術顧問

毎月の稼働と、助言の責任の線引き

  • 稼働の目安・上限と、超えたときの報告・協議の手順
  • 連絡手段・時間帯・返信の目安・会議の回数
  • 図面・申請書類・現場立会いなどの実作業を除外業務として切り出す
  • 助言を採用するかどうかの最終判断は委託者に置く

期間を区切った技術指導

教える中身と、教えた相手が競合になること

  • 「全部教える」の中身を回数・テーマ・方法で書き出す
  • 指導先どうしの地域・顧客層が重なるときの扱い
  • 教えた技術の利用を縛るのか、守る場所を別に置くのか
  • 前払いと途中終了の精算、日程の変更

段階的な参画

次の契約を結ぶ義務があるのか

  • フェーズを見据えた基本合意と、個別の業務委託契約の二層構造
  • 次のフェーズへの移行を協議する時期と項目
  • 委託者の都合で中止・縮小されたときの通知と補償
  • 他案件への関与と、既存のノウハウの帰属

事務所が確認してきた技術系の契約書は、おおよそ次のように分かれていました。以下、この表の書類を例に、条文の書き方を見ていきます。

事務所が確認した技術系の契約書と、その形
書類形契約書で目立った点
住宅建築の技術顧問契約書(全17条)月額固定の技術顧問実作業を「除外業務」として切り出す。雇用ではないことの確認。助言を使った競合の提供を、顧問を受ける側に禁じる
菓子・食品メーカーの新商品開発の進行管理・助言(3版)個人の受託者による月額顧問型商品の制作・設計・製造といった実作業を含めない。最終判断は委託者。常駐の義務がない
アプリ開発の技術顧問型コンサル(3版)月額固定で、稼働は月8時間が目安超えそうなときは直ちに報告して協議する。毎月の会議の回数を決める
技術コンサルの月額3プラン契約プラン制の技術顧問プランごとに対応手段・返信の目安・会議の回数・稼働の目安を決める
設計・CAD分野の技術コンサル基本契約前払いのポイントと個別契約方式発注書ごとに業務内容と使うポイントを決める。成果物の権利を種類で分ける
製造業の立上げプロジェクトへの中長期の参画(基本合意書と個別業務委託契約、各2版)段階的な参画フェーズの移行協議。委託者の都合で中止したときの終了補償。専属ではないことの確認

契約の当事者や金額は載せていません。表の「形」は、事務所が書類の中身から整理したものです。

月額の技術顧問:稼働は「目安」か「上限」か、超えたときに何が起きるか

月額の技術顧問で最初に決めるのは、毎月の関わり方です。ここが曖昧だと、顧問料が固定である以上、受託者の持ち出しが少しずつ増えていきます。逆に委託者から見れば、払っている顧問料に見合う関わりが得られているのか分からなくなります。月額顧問の稼働の書き方(会議の回数、返信の目安、稼働の目安を段階に分けるプラン制など)の一覧は業務範囲と顧問の範囲のページにあります。ここでは、アプリ開発の技術顧問型の契約書を例に、「目安」の書き方に絞ります。

ここで押さえたいのは、「目安」と書いたときの意味です。アプリ開発の技術顧問型の契約書は、月8時間を「目安」としたうえで、大幅に超えそうになった時点で受託者が直ちに報告し、協議する仕組みを置いていました。「上限」と書けば超過分は引き受けないことになり、「目安」と書けば超えても直ちに契約違反にはならない代わりに、超えたときの扱いが別に必要になります。この契約書は、協議で追加の委託料に合意したときは、当月の委託料と合わせて払うと決めていました。目安を置くなら、超えそうなときの報告の義務と、その後の扱い(追加で払うのか、翌月に繰り越すのか、そのまま引き受けるのか)を対で書く必要があります。

稼働の目安に会議の時間を含めるのか、会議とは別に数えるのかも、書いておかないと「会議だけで目安の半分を使った」という話になりかねません。会議の準備や議事の整理に使う時間も、同じ理由で、目安に含めるかどうかを決めておくと安心です。なお、顧問料の決め方(月額、時間単価、プラン制など)の全体像は報酬設計のページで扱っています。

条文例稼働の目安と超えたときの扱い(受託者側のひな形として事務所が組む形)

  1. 乙は、本業務を、1か月あたり8時間を目安として行う。会議への出席、資料の確認及び回答の作成に要した時間は、この時間に含める。
  2. 乙は、1か月の本業務に要する時間が前項の目安を大幅に超えるおそれが生じたときは、直ちにその旨を甲に報告し、甲乙は対応の方法について協議する。
  3. 前項の協議により、甲が追加の委託料を支払うことに合意したときは、甲は、当月の委託料と合わせて追加の委託料を支払う。合意に至らないときは、乙は、目安を超える部分の業務を行わないことができる。
  4. 乙は、原則として甲の営業日及び営業時間内に本業務を行う。緊急の対応を要するときは、甲乙が協議して対応の可否を決める。

書き方の要点第3項の後段が大切です。協議がまとまらないときの扱いを決めておかないと、受託者は断る根拠がなく、委託者は頼んでよいのか分からないまま、超過だけが積み上がります。

もう一つ、助言の「記録」の扱いにも注意があります。住宅建築の技術顧問契約書は、提供した助言や意見を適宜記録・文書化して報告または提出することを「努める」にとどめていました。助言は、電話や打合せや短いメッセージで流れていくことが多く、すべてを書面にすることを義務にすると、書面にしなかった助言が義務違反と言われかねません。かといって記録がまったくないと、後になって「そんな助言は受けていない」「その助言のとおりにして失敗した」という争いになったときに、どちらも立証に困ります。契約では「求めに応じて努める」とし、重要な助言は要点をメールで残す、という運用を組み合わせるのが現実的です。

月額の顧問契約を更新するときの定め(自動更新の期間、止め方の日数)は、住宅建築の書類が1年単位で30日前の通知、3プラン制の書類が1か月単位で15日前の通知と、書類ごとに違っていました。更新の書き方は中途解約・更新・精算のページで整理しています。技術顧問は、時期によって相談の量が大きく変わる仕事ですので、年単位で自動更新にするなら、報酬を見直す手続(業務量が著しく増減したときは協議して見直す、という定め)を併せて置くのが事務所の書類での扱いです。

助言と実作業を分ける:除外業務の切り出しと、採否の最終判断

技術顧問で最も起きやすいのが、助言のつもりで始めたことが、いつのまにか実作業の引き受けになっている、という事態です。図面を描いてほしい、現場に立ち会ってほしい、役所に出す書類を整えてほしい、といった頼みは、相談に乗る人にとって「ついでに」頼みやすい仕事です。事務所が確認した住宅建築の技術顧問契約書は、顧問業務を助言・意見提供を主たる内容とし、こうした実務を「除外業務」として原則として業務範囲に含めず、必要になったときは個別に書面で合意すると定めていました。顧問契約一般の「しない業務」の列挙は業務範囲と顧問の範囲のページで扱っていますので、ここでは技術顧問に特有の点に絞ります。

この線は、報酬や稼働の整理にとどまりません。建築の分野では、一定の規模・構造・用途の建築物の設計や工事監理は、建築士でなければできないと定められています(建築士法3条、3条の2)。他人の求めに応じて報酬を得て設計や工事監理などを業として行うには、建築士事務所の登録も必要です(同法23条1項)。また、官公署に提出する書類の作成を、他人の依頼を受け報酬を得て業として行うことは、行政書士や行政書士法人でなければできません(行政書士法1条の3、19条1項。他の法律に別段の定めがある場合などを除く)。助言だけを引き受けたつもりの技術顧問が、図面や申請書類の作成を実質的に請け負う形になると、契約書の文言だけでなく実態の面でも、これらの規制に近づきます。ここで大切なのは、個別の手続の中身ではなく、契約書の上で「作業の種類」によって範囲を区切っておくことです。資格を要する業務は、顧問契約の範囲に含まれないと書いておきます。

分野が変わっても考え方は同じです。菓子・食品メーカーの新商品開発の進行管理と助言を受託する契約書は、受託者の業務を、企画立案、課題の整理、計画の立案、進行とスケジュールの管理、関係者の連絡調整、会議の運営、議事録と報告資料の作成などとしたうえで、「商品そのものの制作、開発、設計、製造その他これらに類する実作業は含まれず、当該実作業に関する責任は受託者に帰属しない」と明記していました。開発の「進行を管理する人」が、いつのまにか開発そのものの責任者に見られることを防ぐ条項です。続けて、対象プロジェクトの最終的な経営判断、事業判断、意思決定は、すべて委託者の責任と権限で行うと書いています。

条文例除外業務と採否の最終判断(技術顧問のひな形として事務所が組む形)

  1. 乙の業務は、技術的な助言、意見の提供及び調査への協力とし、設計図書の作成、監理、現場への立会い、申請書類の作成及び提出、官公庁との対応その他の実務の遂行(以下「除外業務」という。)を含まない。
  2. 法令により一定の資格を有する者でなければ行うことができない業務は、前項に定めるもののほか、本契約の業務に含まれない。
  3. 除外業務を必要とするときは、甲乙が個別に書面で合意する。この合意がない限り、乙は除外業務を行う義務を負わない。
  4. 甲は、乙の助言を採用するか否か、及び採用する場合の実施の方法について、自らの責任で最終的な判断を行う。
  5. 乙は、甲から提供を受けた情報及び資料の範囲で助言を行う。乙は、これらの情報及び資料の正確性及び完全性について、保証しない。

書き方の要点第2項は「書き出しきれない資格業務」を拾う受け皿です。第5項は、助言の前提になる情報が間違っていたときの責任の所在を決めます。住宅建築の書類では、委託者が必要な情報や資料、関係者への接触の機会を適宜提供するよう「努める」と書かれていました。受託者側なら「努める」ではなく義務として書くほうが、助言の前提を固定できます。

助言に基づく判断の責任も、同じ流れで整理します。技術コンサルの月額3プラン契約は、受託者が提供する情報は委託者の意思決定を支援するものであって、その正確性、完全性、有効性、期待される成果の実現を保証しないと書き、助言に基づく意思決定や実行の最終判断と責任は委託者が負うとしていました。そのうえで、受託者の故意または重過失によって直接かつ通常生じる損害が出たときは賠償する、という例外を置いています。助言の責任をまったくなくすのではなく、助言の質に関わる責任(故意・重過失)と、助言を採るかどうかの判断に関わる責任を分けているところが要点です。責任の範囲と上限の決め方の全体は、成果を保証しない条項のページで詳しく取り上げています。

技術指導型:「全部教える」の中身を書き出し、競合になる相手を断れるようにする

技術指導は、期間を区切って、これから同じ仕事を始める人に技術と経営の考え方を教える契約です。事務所が解説記事で取り上げたモデルケース(個人で施術院を営む人が、開業を目指す人に開業の準備、集客、問診、独自の施術方法、契約につなげる声かけまでを教える契約。架空の事例です)を手がかりに、技術指導に特有の設計を整理します。この形には、他の契約にない事情があります。教えれば教えるほど、同じことができる人が増えるということです。

まず、「教える中身」を曖昧にしないことです。「しっかりサポートします」では、「回数がもっとあると思っていた」「対面はもっと長いはずだった」という食い違いが必ず起きます。モデルケースでは、相談の手段と期間(期間内にメッセージアプリで相談できる)、オンラインで説明する回数とテーマ、対面で実際の作業を見せる内容、その後のフォローの範囲を、契約書に具体的に並べていました。中身の書き出しは、受ける人のためであると同時に、教える人が際限なく抱え込まないための歯止めでもあります。「いつでも相談できる」は魅力ですが、手段と期間の枠がなければ、教える人の生活が成り立たなくなります。

次に、教えた相手どうしが競合になる問題です。同じ先生から同じやり方を学んだ別の人が、先に学んだ人の商圏にあとから入ってくると、先に学んだ人が最も損をします。そこで、すでに指導した相手と同じ地域で同じ顧客層を狙う人からの申込みは、断ることができるという条項を置きます。これは教える人を守るだけでなく、すでに教えた相手を守る約束であり、「あの先生に頼むと、自分の隣に競合をつくられるかもしれない」という不安を取り除いて、教える人の信用を支えます。

条文例指導先との重なりを避ける定め(技術指導のひな形として組む形)

  1. 乙は、既に甲以外の者に対して本契約と同種の指導を行っている場合において、その者と同一の地域で同種の顧客層を対象とする事業を営む者から申込みを受けたときは、これを承諾しないことができる。
  2. 前項の「同一の地域」及び「同種の顧客層」に当たるか否かは、事業の所在地、商圏、提供する役務の内容その他の事情を踏まえ、乙が合理的に判断する。
  3. 乙は、自己の指導の質を保つことができる範囲で、1か月に受け入れる指導の件数を制限することができる。

書き方の要点モデルケースでは、地域の重なりを「何キロ以内」のような数字で縛らず、判断のものさし(地域と顧客層が重なるか)だけを示して、あてはめは教える人に任せる書き方をとっています。商圏の感覚は町の作りや交通で違い、数字で固めると現実に合わなくなるためです。受ける側の立場で見るなら、断ったときの理由の説明や、他の指導先の有無を問い合わせる手続を求めておくとよいでしょう。

三つ目が、教えた技術そのものの扱いです。技術やノウハウを渡す契約では、「教えたことを真似して使うな」「似た事業をするな」といった縛りを入れるのが定番のように見えます。しかし技術指導は、教わった人がその方法を使って自分の事業を始めることが目的です。利用を禁じると、お金を払って学ぶ意味がなくなります。モデルケースでは、あえてその縛りを置かず、守る場所を別に置いていました。教わった方法を使うのは自由としたうえで、お互いが仕事を通じて知った相手の経営の内情や個人の事情を外に漏らさない約束を、終了後もしばらく続く秘密保持として組んだのです。技術は開放し、内情は守る、という分け方です。

技術指導で「守りたいもの」と、条項の置き方
守りたいもの置く条項置かない、または限る条項
すでに教えた相手の商圏同じ地域・同じ顧客層の申込みを断れる旨駅名や距離を数字で固定する定め
教える人の時間と指導の質相談の手段・期間・回数の枠。受入れ件数を限る旨「いつでも」「何度でも」だけの定め
教えた技術そのもの契約の目的の範囲での利用の許諾教わった方法の利用や、似た事業の開始を禁じる定め
お互いの内情・個人の事情相互の秘密保持を、終了後も一定期間続ける内容を問わない広い秘密保持
結果についての期待提供するのは知識と経験の共有で、売上や成功を保証しない旨「必ず成果が出る」という説明を契約書や資料に入れること

教わる側に競業の制限を課すなら、範囲・期間・地域を限らないと、公序良俗に反するとして有効性が争われる余地があります(民法90条)。技術指導では、課さない選択も含めて検討します。

四つ目は、お金の順番です。知識やノウハウは、いちど教えてしまうと取り戻せないので、技術指導は前払いと相性がよい契約です。ただし、前払いだからといって、どんな場合も返さない設計にはしません。途中で終わったときは、進んだ分に応じて精算するのが基本です。準委任では、受託者は、委任が履行の中途で終了したときに「既にした履行の割合に応じて」報酬を請求できます(民法648条3項2号)。難しいのは、技術指導の中身が、期間中の相談、複数回のオンライン説明、一回きりの対面での実演、終了後のフォローと、重みの違う要素でできていることです。「全5回のうち3回が済んだから6割」という計算が、そのままは当てはまりません。一回で大きな価値が渡る対面の実演は、終えた時点で報酬の相当部分が果たされたと見るのが自然ですから、要素ごとの割合を最初に決めておきます。これを決めておかないと、途中解約のときに「ほとんど教わったのに、ほとんど返せと言われた」という、いちばん気まずい争いになります。精算の一覧表の作り方は中途解約・更新・精算のページが詳しく扱っています。

日程の変更と、不可抗力の扱いも決めておきます。対面で実演をする回があるなら、どちらかの体調不良や災害で予定どおりにできないことがあります。双方の落ち度ではない事情で実施できなかったときは、お互いに損害を賠償しない、日を改めて対応する、と書いておけば、責任の追及に発展しません。また、この種の契約は、始まりと終わりをはっきりさせるのが得策です。モデルケースは、1か月の本編と1か月のアフターフォローで区切り、自動更新を置きませんでした。期限を過ぎた相談は、義務ではないが困ったときは受けてよい、という一文を添えています。線は引くが、冷たくはしない、という加減です。

段階的に参画する:基本合意でフェーズを見据え、次の契約の義務は負わせない

3つ目の形は、新しい事業のプロジェクトに、専門家が数年かけて段階的に加わる契約です。事務所が確認した例は、製造業の新しい拠点の立上げに、製造の専門家が加わるものでした。第1フェーズは設備と備品の選定、商品の設計、品質の設計、製造方針の検討という初期設計の期間、第2フェーズは原料の選定、試験栽培、試作、本格稼働の準備の期間、第3フェーズは本格稼働後の事業とブランドの運営に継続して関わる期間です。全体で5年ほどが想定されていました。この形では、全体の枠を定める「基本合意書」と、フェーズごとの業務を定める「個別業務委託契約書」の二層に分けます。

二層構造で最も難しいのは、基本合意書で「継続して参画する」ことを前提にしながら、第2・第3フェーズの契約を結ぶ義務までは負わせない、という書き分けです。事務所が修正した基本合意書では、各フェーズを「独立した単発業務ではなく、一連の事業」と位置づけ、専門家が時間・人・事業上のリソースを確保し、他案件との調整をして加わることを双方で確認しました。そのうえで、「第2フェーズ又は第3フェーズに係る個別契約の締結又は特定の契約条件を当然に義務付けるものではない」と明記しています。前提は尊重するが、条件は進捗を見て決める、という整理です。この一文がないと、委託者は「継続すると言ったのだから、同じ条件で更新しろ」、専門家は「継続すると言ったのだから、この報酬で続けろ」と、双方が相手を縛る根拠に使ってしまいます。基本合意書そのものの拘束力の書き分けは別の論点ですが、ここでは、段階的な参画で何を決めておくかに絞って見ます。

段階的な参画の契約の流れ(事務所が確認した基本合意書の骨組み)

  1. 基本合意書を結ぶ全体の位置づけ、各フェーズの時期、専門家の立場、他案件への関与、知的財産、秘密保持を決める。後続の個別契約の締結は義務づけない。
  2. 第1フェーズ:個別業務委託契約を結ぶ業務内容、期間、報酬、実費の負担、稼働の目安、成果物を、個別契約の空欄を埋めて決める。基本合意書の定めは、個別契約が引用して使う。
  3. 終了予定日の概ね2か月前:移行の協議を始める次のフェーズに進むかどうかと、その条件を協議する。協議する項目は、業務内容と役割分担、契約の形態、稼働の割合、期間、報酬、知的財産の取扱い、競業と秘密保持など。
  4. 第2フェーズ:新しい個別契約を結ぶ試験や準備の期間。条件は進捗や事業計画を踏まえて、フェーズの開始前に決め直す。
  5. 第3フェーズ:参画の形態を選ぶ業務委託の継続、役員への就任など。形態によって前提となる負担や拘束の度合いが違うことを確認し、報酬もその前提を踏まえて決める。
  6. 途中で委託者が止めたとき委託者の都合で中止・延期・縮小するときは、原則として予定日の3か月前までに通知する。専門家が確保していた資源に応じて、合理的な終了補償を請求できる。

事務所の改訂では、専門家の立場と解除の催告の2か所を直しました。次のフェーズの契約を義務付けない書き方、委託者の都合で止まったときの通知と終了補償、秘密保持の存続の改訂は、基本合意書のページに改訂前後の対比を載せています。当初の案の文言が、専門家の立場を曖昧にしたり、条文の中で矛盾していたりした部分を直したものです。

事務所の改訂例 段階的な参画の基本合意書(製造業の立上げ)

専門家の立場

改訂前当初の案:「単なる助言者としてではなく、専門的知識、経験及び技術を活かし、重要事項について主体的に関与する立場として参画する」と定めていた。
改訂後修正版:「単なる助言者又は製造現場に常時常駐して日常の製造作業に継続して従事する製造要員としてではなく」主体的に関与する立場とし、日常の製造体制は委託者が整える。常駐その他の継続的な労務提供義務を課す趣旨ではないと明記した。

なぜ助言だけの役割にも、現場に張り付く労務提供にも読めないようにして、雇用との区別と稼働の範囲を保つため。

解除の催告

改訂前当初の案:解除の条項が、柱書では「何らの催告を要することなく」解除できるとしながら、第1号は「相当期間を定めて是正を求めたにもかかわらず是正されないとき」とされ、同じ条の中で催告の要否が食い違っていた。
改訂後修正版:第1号に基づく解除は、是正を求めても是正されない場合に限るとし、第2号から第5号(支払停止、差押え、解散、信頼関係の破壊など)に当たる場合は催告を要しないと、柱書で書き分けた。

なぜ催告が必要なのか不要なのかが条文の中で食い違うと、解除の有効性そのものが争われるため。

個別業務委託契約書の側にも、押さえるべき点があります。事務所が確認した個別契約は、業務内容、期間、報酬、実費の負担方法、業務の遂行体制と稼働の目安、成果物を空欄にして、知的財産、秘密保持、解除、反社会的勢力の排除、権利義務の譲渡禁止などは基本合意書の条項を引用する形でした。そして、本契約と基本合意書の内容が抵触するときは、本契約(個別契約)を優先すると定め、さらに、受託者の賠償責任の上限(報酬総額)は、委託者が負う報酬と実費の支払義務、基本合意書の終了補償の支払義務には適用しないと書いています。責任の上限が、委託者の支払義務や終了補償を薄めてしまわないようにする手当てです。基本の書類と付随の書類の優先関係の一般的な型はPoC・パイロット・覚書のページにあります。

基本合意書の中の「他案件への関与」も忘れずに置きます。事務所が確認した書類では、専門家は独立した事業者であり、専属の義務は負わないこと、プロジェクトの遂行に支障のない範囲で、既に関与している案件や将来受ける同種の案件、研究や講演などの活動ができることを定めていました。同時に、競業については、プロジェクトで知った委託者の営業秘密、製造方法、商品企画などを利用して、委託者の正当な利益を害する態様で競合する事業に関与しないという、秘密の「利用」を禁じる形にとどめ、範囲や期間などは必要に応じて個別契約で定めるとしています。専門家が複数の依頼を受けて成り立つ仕事で、同業の仕事を一切禁じてしまうと、契約そのものが成り立たなくなるためです。

ノウハウと成果物の権利、雇用でないことの確認、責任の上限

技術系の契約では、権利の帰属をめぐる定めが他の分野より複雑になります。「すでに持っている技術」と「この仕事で新しく生まれるもの」と「仕事の過程で作る書類」が混ざるためです。事務所が確認した書類では、帰属の決め方が次のように分かれていました(住宅建築の顧問契約書の留保+許諾型は成果物のページに記載があります)。権利を譲るか留保するかの一般的な考え方は成果物・知的財産のページに譲り、ここでは技術系の書類の実例を並べます。

技術系の契約書における成果物・ノウハウの帰属
契約成果物の帰属受託者に残るもの委託者の使い方
菓子・食品の開発支援創作と同時に委託者へ無償で譲渡する(著作権法27条・28条の権利を含む)。著作者人格権は行使しない契約前から持つノウハウ、技術情報などの既存の知的財産事業目的の範囲で、複製・改変・再利用が自由
技術コンサルの月額3プラン原則として委託者へ譲渡する(27条・28条の権利を含む)独自のノウハウ、共通テンプレート、再利用できるモジュール、ツールなどの汎用技術自己の事業目的で複製・改変・社内共有ができる。第三者への開示や販売、再配布は承諾が必要
設計・CAD分野の技術コンサル助言の資料やセミナーの資料は受託者、システム本体と手順書は委託者システム内で使う独自のロジック、ノウハウ、技術情報受託者の資料は、承諾なく第三者に提供できない
製造業の立上げへの参画新たに創作された品質の設計、商品企画、レシピ、製造方法などは委託者(別段の合意を除く)参画前から持つ知識、技術、ノウハウ、製造思想、研究成果と、そこから派生する一般的な知見専門家が他の事業、研究、教育、講演で使うことを妨げない(プロジェクト固有の営業秘密を除く)

著作権の譲渡の契約で、27条(翻案権など)と28条(二次的著作物に関する原著作者の権利)が特掲されていないと、これらの権利は譲渡した人に留保されたものと推定されます(著作権法61条2項)。譲渡するなら、27条・28条を名指しで入れます。

表の最後の例には、もう一つ大切な定めがありました。帰属が「専門家が中長期で参画することを前提に合意したもの」であると確認し、参画の形態や推進体制に重大な変更があったときは、知的財産の取扱いを協議する、という定めです。専門家が途中で外れたのに、それまでの成果物のすべての権利が委託者に残る、という結果を避けるための調整条項です。また、帰属を委託者にするとき、著作者人格権は譲渡できないので(著作権法59条)、成果物については行使しない旨の特約を併せて置きます。

「雇用でないことの確認」も、技術系の契約書では欠かせません。住宅建築の技術顧問契約書は、第1条で、提供する業務は「労働契約または雇用関係によらず、独立した業務委託契約に基づくもの」と確認していました。菓子・食品の開発支援の書類は、さらに具体的に、業務の方法、手段、順序、時間配分、場所は受託者の裁量とし、常駐の義務も出社や定時勤務の義務もない、就業規則その他の社内規程の適用を主張しない、と定めていました。ただし、契約書に「雇用ではない」と書くだけでは決まりません。労働基準法9条は、労働者を「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義しており、実際に使用されているかは、働き方の実態(指揮命令の有無、時間や場所の拘束、代わりの人に任せられるか、報酬の性質など)で判断されます。稼働の目安を「月8時間」のように置く、会議の時間を決めるが作業の時間は決めない、という運用は、実態の面でも雇用ではないことと整合します。

最後に、賠償責任の上限です。技術系の書類は、上限の基準が書類ごとに違っていました。

賠償責任の上限の基準(技術系の書類の例)
契約上限の基準上限が外れる、またはその他の定め
菓子・食品の開発支援損害発生時点の直近6か月間に支払われた報酬の総額故意・重過失の場合は適用しない。逸失利益その他の間接損害は含まれない
技術コンサルの月額3プラン損害発生日の属する月に支払われた報酬額(税抜)故意による場合は適用しない。受託者の故意・重過失による直接かつ通常の損害に限る
設計・CAD分野の技術コンサル当該違反に係る個別契約で受領した報酬の総額故意・重大な過失の場合は適用しない
製造業の立上げへの参画(個別契約)個別契約に基づく報酬の総額故意・重過失の場合は適用しない。委託者の報酬・実費の支払義務と終了補償の支払義務には適用しない

基準が「直近の月数」か「契約の報酬総額」かで、同じ報酬額でも上限が大きく変わります。月額の顧問契約で「当月分の報酬」を上限にすると、契約して間もない時期に事故が起きたとき、上限が小さくなりすぎることもあります。一方、委託者から見れば、助言が原因で大きな損害が出ても、上限が顧問料の数か月分では不十分と感じることがあります。どちらに寄せるにせよ、故意・重過失を上限の例外にしておくこと、受託者の責任の上限が委託者の支払義務に影響しないようにすること、の二点は共通して押さえます。

事務所が最初に確かめること

技術顧問・技術指導・段階的な参画の契約書を作るときに、最初に確かめる内容を整理します。形によって聞くことは違いますが、「どの形か」を決めることが出発点です。

ヒヤリングの問い技術系の契約を組む前に確かめること

  • 問月にどれくらい、どんな手段で関わりますか。会議は何回で、1回何分ですか。

    理由稼働の目安と会議の回数を特定します。会議の時間や準備の時間を目安に含めるかどうかも、ここで決めます。

  • 問頼まれやすいが、引き受けない実務は何ですか。図面、申請書類、現場への立会い、役所との対応などはどうしますか。

    理由除外業務を、その分野で頼まれやすい業務の名前で列挙します。資格が必要な業務は、範囲に含めないと明記します。

  • 問助言を採用するかどうかを決めるのは誰で、助言の前提になる情報はどう届きますか。

    理由最終判断を委託者に置く条項と、情報・資料の提供の義務を決めます。助言の前提が間違っていたときの責任の所在に関わります。

  • 問教える仕事なら、何を、何回、どの方法で渡しますか。同じ地域・同じ顧客層の相手を断れるようにしますか。

    理由教える中身を書き出し、指導先どうしの重なりへの対応を決めます。教えた技術の利用は縛るのか、守る場所を別に置くのかも、ここで方針を決めます。

  • 問プロジェクトに加わるなら、次の段階の契約を結ぶ義務はありますか。委託者の都合で止まったら、どうなりますか。

    理由基本合意と個別契約の二層構造にして、後続の契約の義務の有無、移行協議の時期、中止の通知期間と終了補償を決めます。

  • 問すでに持っている技術と、この仕事で新しく生まれるものを分けられますか。

    理由既存のノウハウは受託者に残し、新規の成果物の帰属と使い方を決めます。参画が途中で終わったときの扱いも確認します。

  • 問他の仕事との兼ね合いで、専属にはなりませんか。働き方は雇用に見えませんか。

    理由他案件への関与と、競業の範囲を決めます。常駐や時間の拘束の有無を確かめ、雇用ではないことが実態と合うかを見ます。

起きがちなこと

技術系の契約書で、事務所が繰り返し見てきたこと

  • 月額の顧問契約に稼働の目安がなく、顧問料が固定のまま、相談の量だけが増え続けている。
  • 稼働を「目安」と書いているが、超えそうなときの報告の義務も、超えたときの扱いも書いていない。
  • 助言のつもりで始めた関わりが、図面の作成や現場への立会い、役所に出す書類の整備に広がっているのに、除外業務の定めがない。
  • 助言を採用するかどうかの最終判断が委託者にあることが、契約書のどこにも書かれていない。
  • 「全部教える」「いつでも相談できる」とだけ書かれ、教える回数・テーマ・手段・期間が決まっていない。
  • 教えた相手と同じ地域・同じ顧客層の申込みを受けてよいかが決まっておらず、先に学んだ人から不満が出る。
  • 教わった技術の利用を禁じる定めが入っていて、教わる目的そのものと矛盾している。
  • 基本合意書で「継続して参画する」と書きながら、後続の契約の義務の有無が曖昧で、双方が相手を縛る根拠に使っている。
  • 委託者の都合でプロジェクトが止まったとき、「協議する」とあるだけで、補償を請求できる根拠がない。
  • 成果物を委託者に譲渡する条項に、著作権法27条・28条の権利の特掲がなく、権利が受託者に残ったと推定される。
  • 既存のノウハウと、新しく生まれた成果が区別されず、受託者が他の仕事で自分の技術を使えない書き方になっている。

よくあるご質問

技術顧問契約は、準委任と請負のどちらですか。

助言や意見の提供、会議への出席といった事務を任せる技術顧問は、多くの場合は準委任(民法656条)にあたります。準委任は結果の完成を約束する契約ではなく、受託者は善良な管理者の注意(民法644条)で事務を処理します。ただし、契約書に「納品」「完成」「検収」のような請負の言葉が混ざると、完成を約束したように読まれて性質の争いになります。助言を文書にする場合でも、「交付」「提示」のような言葉に置き換えておくのが安全です。契約の形の書き方は、契約の形のページで説明しています。

月の稼働時間を「目安」と書くと、超えても追加の報酬は請求できませんか。

「目安」は超えたら直ちに契約違反になる時間ではない代わりに、超えたときの扱いを別に決めておかないと、追加の報酬を請求する根拠も弱くなります。事務所が確認したアプリ開発の技術顧問型の契約書は、大幅に超えそうなときは直ちに報告して協議し、追加の委託料に合意したときは当月の委託料と合わせて払う、という仕組みを置いていました。協議がまとまらないときは目安を超える部分を引き受けない、という一文まで入れておくと、受託者は断る根拠を持てます。

建築や食品など、資格が関わる業務を頼まれたとき、契約書ではどう扱いますか。

助言と、資格が必要な実作業は、作業の種類で分けて書きます。事務所が確認した住宅建築の技術顧問契約書は、設計図書の作成、監理、現場への立会い、申請書類の作成と提出、官公庁対応などを「除外業務」として、顧問業務に含めないと定めていました。法令で資格を要する業務は範囲に含めないと包括的に書く条項と、除外業務が必要なときは個別に書面で合意する条項を組み合わせます。個別の手続の解説は、このページでは扱いません。

技術を教えた相手が競合になるのを防ぐために、「真似をするな」と書くべきですか。

技術指導では、教わった人がその方法で自分の事業を始めることが目的ですから、利用を禁じる条項は目的と衝突しやすくなります。事務所の解説記事のモデルケースでは、利用は自由とし、守る場所を別に置いていました。すでに教えた相手と同じ地域・同じ顧客層の申込みを断れる条項、相互の経営の内情や個人の事情を終了後も守る秘密保持、教える件数の制限です。教わる側に競業の制限を課すなら、範囲・期間・地域を限らないと、有効性が争われる余地があります。

プロジェクトに段階的に参画する場合、基本合意書だけで報酬まで決まりますか。

決まりません。事務所が確認した例では、基本合意書は全体の枠(位置づけ、フェーズ、専門家の立場、他案件への関与、知的財産、秘密保持)を定め、報酬や稼働、期間などの具体的な条件は、フェーズごとの個別業務委託契約で定めていました。基本合意書は、後続の個別契約や特定の条件を当然に義務づけない、と明記し、各フェーズの終了予定日の概ね2か月前に移行の協議を始める、と決めています。委託者の都合で中止するときの通知と終了補償も、基本合意書に置くのが事務所の書類での扱いです。

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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への当てはめは、業務の内容や当事者の属性、契約に至った経緯によって異なることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきたコンサルティング契約書、顧問契約書、業務委託契約書、成果報酬・収益分配型の契約書、業務提携・共同事業の契約書、秘密保持契約書、PoCの覚書、各種の覚書、レビュー報告書、ヒヤリングシートなどを、個別の依頼者・相手方が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索(法令API)で確認しています(最終確認日:2026年10月20日)。参考: e-Gov法令検索 / 消費者庁 / 個人情報保護委員会 / 公正取引委員会 / 経済産業省

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