このページの要点
- 組合・匿名組合・株式会社への出資・委託のどの型で組むかを先に決め、純利益の一定割合を払うなら「純利益」を定義する。
- 名義上の株主と実質の持分が違うときは、名義株主の処分の禁止、議決権行使の指示、配当の受け渡し、不測の事態への対応を契約で固める。
- 取締役にするという約束や総会での賛成の約束は、会社法上の決議を置き換えられない。重要事項は事項ごとに決議の要件を確かめ、違反時の責任まで書く。
- 撤退は原因ごとに、誰が何をいくらで引き取るかを決める。取得価額と公正価値の高い方での買取りは、買い取る主体と手続を書き分ける。
結論:出資する人と運営する人が分かれる共同経営は、「誰が株主か」「誰が決めるか」「どう抜けるか」を別々の条に分けて書く
「共同経営契約書」は法律上の契約の型の名前ではありません。お金を出す人と、実際に店や事業を回す人が分かれているときに、両者の取り分と役割と別れ方を決める書面に、そう名付けられることが多いというだけです。表題が同じでも、中身が出資契約に近いものも、運営の委託契約に近いものも、株主どうしの約束に近いものもあります。
事務所が扱ってきた共同経営の書類には、大きく3つの系統がありました。ひとつは、一方が運営資金を出し、もう一方が店舗の運営を受け持って、純利益の一定割合を委託料として受け取る飲食店の共同経営契約です。ふたつめは、出資者が運営会社の株主として加わり、経営には「一定の関与」にとどめる、運営会社との共同経営の契約です。みっつめは、株主名簿に載っている人と、実際に経済的な持分を持つ人が違うことを、当事者の間で確認する三者間の契約です。
この3つに共通して、書き方の順番は次の3層に分けると整理できます。
- 利益の取り方:配当なのか、委託料なのか、報酬なのか。何を基準に、いつ払うのか。
- 株主としての地位:名簿上の株主は誰か、実質の持分は誰のものか、その持分を誰が処分できるのか。
- 意思決定と撤退:何を誰が決めるのか、決められないときはどうするのか、別れるときに何をいくらで引き取るのか。
この3層を1つの条文に混ぜて書くと、利益の争いが起きたときに、株主の地位まで争いになります。反対に、層ごとに分けておけば、争いの範囲を狭められます。
もうひとつ、このページ全体を通して押さえておきたいのは、会社法の仕組みの中で「会社や第三者に対して効くこと」と「契約した当事者の間でしか効かないこと」を区別する、という視点です。たとえば、取締役にするという約束や、総会で賛成票を投じるという約束は、守られなければ契約違反として責任を追及できますが、約束に反して行われた会社の手続そのものが当然に無効になるとは限りません。この違いを知らずに契約書の文言だけで安心すると、いざというときに「契約書には書いてあったのに止められなかった」という事態になります。
このページは、株式会社の形で出資者と運営者が結ぶ合意に絞って説明します。組合にしないための条項の書き方は業務提携・共同事業のページ、売上や利益を分けるときの計算の基礎はレベニューシェアのページ、関係を終えるときの一般的な精算は中途解約・更新・精算のページで扱っています。ここでは、それらと重ならない部分、つまり株主の地位と意思決定と撤退に重心を置きます。引用する会社法・民法・商法の条文は、2026年10月20日にe-Gov法令検索で現行の条文を確認しています。
出資者と運営者が組む、4つの形
共同経営の契約を作る前に、まず、どの法的な型で組むのかを決めておく必要があります。同じ「お金を出す人」でも、型によって、会社の債務に対する責任も、経営に口を出せる範囲も、利益の受け取り方も違うからです。
| 型 | 出資者の地位 | 対外的な責任 | 利益の取り方 |
|---|---|---|---|
| 株式会社に出資する | 株主。株式を引き受け、名簿に記載される(会社法121条) | 株主の責任は株式の引受価額が限度(会社法104条) | 剰余金の配当(会社法453条・454条)。株主総会の決議で決まる |
| 組合を作る(民法667条以下) | 組合員。出資は労務でもよい(民法667条2項) | 組合の債権者は、各組合員に損失分担の割合か等しい割合で請求できる(民法675条2項) | 損益分配の割合を決める。決めなければ出資の価額に応じる(民法674条) |
| 匿名組合にする(商法535条以下) | 匿名組合員。出資は営業者の財産になる(商法536条1項) | 業務執行も代表もできず、第三者に対して権利も義務も持たない(商法536条3項・4項) | 営業から生ずる利益の分配(商法535条) |
| 事業主体は出資者で、運営者に業務を委託する | 事業の主体。運営者は受託者 | 事業の債務は主体が負う。受託者は委託の範囲で責任を負う | 運営者には委託料(純利益の一定割合など)を払う |
組合は、出資者が運営に関わる限り、労務の出資と合わさって成立する可能性があります。意図しない組合になると、出資者でも運営者でも、事業の債務について個人の財産で責任を問われる形になり得ます。
どの型を選ぶのかは、出資者が「どこまで責任を負いたくないのか」「どこまで口を出したいのか」で決まります。出資者が会社の債務を負わず、運営には直接関わらないのであれば、株主として株式会社に出資する形か、匿名組合の形が合います。出資者自身が事業の主体となり、運営者に委託するのであれば、出資者が事業の債務を負うことになるので、その分、運営者を縛る条項(業務の範囲・報告・解除)を重くしておく必要があります。
また、型の名前を契約書に書いても、実態が違えば実態で評価されます。出資者が日常の運営にも指示を出し、運営者が自分の判断で損益を負っているのに「委託契約」と書いてあるだけでは、組合とみなされる可能性が残ります。これは業務提携・共同事業のページで詳しく説明している、名前でなく中身で判断されるという話と同じです。
株式会社の株主として出資するときに気を付けたいのは、株主の権利として法律が最低限保障しているものが何か、という点です。剰余金の配当を受ける権利と残余財産の分配を受ける権利の両方を株主に与えないという定めは無効で(会社法105条2項)、株主は株式の内容と数に応じて平等に扱われるのが原則です(会社法109条1項)。ただし、株式を自由に譲渡できない会社(公開会社でない株式会社)では、配当や議決権について株主ごとに異なる取扱いをする旨を定款で定めることができます(会社法109条2項)。出資者と運営者で取り分や議決権の配分を変えたいときは、契約だけでなく、定款や種類株式(会社法108条)の設計とセットで考える必要があります。
純利益の一定割合を委託料にする型:事業主体は出資者、運営者は受託者
ひとつめの系統、飲食店の共同経営契約を見てみます。この契約では、一方が運営資金の全額を出資し、もう一方が店内業務と運営・経営管理の業務を受託します。出資者は物件と備品の維持に関する業務を受け持ち、運営者は契約期間中、必ず業務を遂行する義務を負います。運営者への報酬は、純利益の一定割合を委託料として、翌月末日までに払うという内容でした。事業の主体は出資者で、運営者は受託者だという構造です。
この型は、書面の見た目がシンプルな分、次の点の書き込みが薄くなりがちです。
ヒヤリングの問い純利益の一定割合を払う共同経営で、確認したい点
問「純利益」はどの数字から何を引いた額か
理由定義が書かれていないと、毎月の委託料の計算のたびに争いの余地が残ります。売上から引く費用の範囲(家賃、仕入れ、人件費、運営者自身の報酬、減価償却の扱い)と、赤字の月の繰越しの扱いを決めておきます。計算の基礎の作り方はレベニューシェアのページの考え方がそのまま使えます。
問運営者が毎月払う「出資金」は何の対価か
理由出資者が運営資金を全額出す設計の中で、運営者も毎月定額を出資金として払う定めがある場合、それが出資の分割払込みなのか、運営者の取り分から積み立てる趣旨なのか、保証金に近いものなのかを書いておかないと、終了時にその金額が戻るのかが争いになります。
問終了時の清算が「折半」で足りるか
理由資産と負債を折半とする定めは分かりやすい反面、出資の額が大きく偏っている事業では、出資額の返戻と、事業で増えた分の分配を区別しないまま折半すると、実質が変わります。出資額を先に戻してから残りを分ける、という順序を書くことも検討します。
問事業を続ける側が出たときの買取りの計算
理由「協議により算出する」だけでは、協議が不調のときに決める方法がありません。評価の基準日、評価する人、評価に使う資料(直近の決算か、時価か)を書いておくと、協議の入口が作れます。
問運営者が続けられなくなったとき
理由運営者が一身上の都合で業務ができなくなった場合に、出資者が運営を引き継ぐ権利、代わりの運営者を探す期間、その間の委託料の扱いを決めておきます。フランチャイズに加盟する店舗では、本部との契約上の地位を誰が持っているのかもあわせて確認します。
表の形でなく、問いと理由の形で並べています。契約書の条文にする前に、この5点について当事者の答えが一致しているかを確かめます。
この系統の契約で押さえたいのは、重要事項の協議の定めです。事業の廃止、新店の開設、借入などの重要事項は、双方の協議を必要とすると定める例があります。協議が整わないときにどうするのかが書かれていない例が多いので、実務的には、どちらが最終判断をするのか(出資者か、運営者か)か、決められないときの手続(第三者の意見を聞く、一定期間後は現状維持とする、など)を加えておくと、動けなくなる状態を避けられます。
この種の契約書には、更新の定めを置くものもあります。当初の期間が満了する前に、書面による解約の申出がないときは、さらに1年延長し、以後も同様とするという内容ですが、解約の申出をいつまでにすべきかの期限が書かれていない例が見られます。期限がないと、更新の直前にようやく話し合いが始まるなど、運営者にも出資者にも不都合が出るため、「期間満了の3か月前まで」などと期限を入れておくことが、書き方の定番です。
条文例委託料と純利益の定義(この型で書くときの書き方の一例)
- 甲は、乙に対し、本件業務の委託料として、各月の純利益の〇パーセントに相当する額を支払う。
- 前項の「純利益」とは、当該月の売上高から、次の各号に定める費用を控除した額をいう。ただし、その額が負の数となる場合は、その額を翌月以降の純利益から控除する。(1)食材その他の仕入原価 (2)店舗の賃料及び共益費 (3)甲及び乙が事前に書面により承認した人件費 (4)その他、甲乙が事前に書面により承認した費用
- 甲は、毎月末日から〇日以内に、前項の計算の根拠となる売上の明細及び費用の明細を乙に交付し、乙は、交付から〇日以内に異議を述べることができる。
書き方の要点「事前に書面で承認した費用」だけを控除できる形にしておくと、運営者の取り分を減らす目的の費用が入り込むことを防げます。反対に、出資者の側の立場なら、運営者の個人的な費用を控除できないという逆の定めを加えます。
名義上の株主と実質の持分が違うとき:三者間の契約で何を固めるか
みっつめの系統は、株主名簿に載っている人(名義上の株主)と、実際に経済的な持分を持つ人(実質の持分を持つ人)が違うことを、当事者の間で確認する三者間の契約です。事務所の書類では、ある会社の株式を名義上は1人が全部保有しているが、そのうちの3分の1ずつを3人が実質的に持ち、配当と売却益を等分するという内容がありました。
ここで押さえておきたい会社法の出発点は、株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名または名称と住所を株主名簿に記載しなければ、株式会社その他の第三者に対抗できない(会社法130条1項)、という点です。つまり、会社との関係では、株主名簿に載っている人が株主として扱われます。契約で「実質の持分は別の人にある」と決めても、会社や第三者に対して、実質の持分を持つ人が自分は株主だと主張できる保証はありません。
そのため、この種の契約は、名義上の株主の側の義務で固めるのが基本になります。
| 固めること | 書き方の方向 | なぜ必要か |
|---|---|---|
| 名義株主の処分の禁止 | 実質持分を持つ人の事前の書面の同意なく、株式を譲渡し、担保に供しないと書く | 名義株主が第三者に譲渡し、その第三者が名簿に記載されると、会社法130条1項の対抗の問題が生じ、実質持分を持つ人が不利になりかねない |
| 株主権の行使方法 | 名義株主は、実質持分を持つ人の指示に従って議決権を行使する、と書く | 会社に対して株主権を行使できるのは名義株主。指示に従う義務は、契約上の義務としてしか効かない |
| 配当の受け渡し | 会社から受けた配当は、持分の割合で実質持分を持つ人に〇日以内に引き渡す | 配当は名義株主の口座に入る。受け渡しの期限と方法がないと、名義株主の資金繰りに巻き込まれる |
| 名義株主に不測の事態があったとき | 死亡、破産、差押え、離婚、行方不明のときの株式の扱いと、名義の書換えへの協力義務を書く | 名義株主の債権者の差押えや相続人の権利が、実質の持分に及ぶ可能性がある |
| 契約の存在を会社が知っているか | 会社の同意の有無、会社への届出の要否を決める | 会社が知らないままでは、会社に対して実質持分を持つ人が何も主張できない場面が増える |
この系統の契約では、第三者に売却する時期の定めも置かれていました。ある書類の原案には、契約締結から2年以内に対象会社の全株式またはその過半数を第三者に譲渡することを義務とする定めが置かれていましたが、事務所の修正版では5年以内としています。同時に、原案にあった、実質持分を持つ人に3年間の競業の禁止を課す条(地域は国内外に及び、会社と競争関係にある法人への資金提供、役員就任、顧問契約まで禁止する内容)は、修正版では置かれていません。
事務所の改訂例 名義と実質の持分を分ける三者間契約の修正例
売却を義務づける期間
なぜ売却は相手があってできることで、短い期限を義務にすると、期限を過ぎた時点で全員が契約違反になりかねません。期限を現実的にし、売却できないときの出口を別に用意しておくほうが、契約として機能します。
実質持分を持つ人の競業の禁止
なぜ配当と売却益の受け取りを目的とする関係で、事業そのものへの参加を縛る範囲が広すぎます。期間・地域・対象が広い競業の禁止は、有効性が争われやすくなります。
この種の契約では、条文の中に会社法の条番号を多く挙げて「適法である」と確認する書き方が見られます。しかし、条番号を並べても、契約の効力が増すわけではありません。会社法の規定に反する内容にならないよう、実質の持分を持つ人が主張できる範囲を契約の内部の権利義務として設計し、会社や第三者との関係で効かないものは、効かない前提でカバーする(違約金、処分の禁止、名義書換えへの協力義務など)のが、実際に機能する書き方です。
議決権と役員への就任を約束する:契約が効くところと効かないところ
株主間の合意では、「出資者を取締役に選任する」「重要事項は出資者の同意なしに決めない」「総会では合意した方針に従って議決権を行使する」といった約束がよく置かれます。事務所の三者間契約には、実質の持分を持つ人が対象会社の取締役または監査役として関与する義務を負うこと、取締役・監査役の選任や解任、事業の大幅な変更、増減資、主要な業務提携やM&Aなどは、名義上の株主が単独で決定または実行できないこと、役員の解任は正当な理由を示して全員が書面で同意した場合に限ることが書かれていました。
この約束が、会社法の上でどこまで効くのかを整理します。
| 約束の内容 | 会社法の定め | 契約が効く範囲 |
|---|---|---|
| 取締役に選任する | 役員は株主総会の決議で選任する(会社法329条1項)。決議は、原則として、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した議決権の過半数で行う(会社法341条。定款で定足数を3分の1以上まで下げられる) | 総会の決議を経なければ選任できない。賛成票を投じる約束は、約束した株主に対する契約上の義務 |
| 解任しない | 役員は、いつでも、株主総会の決議によって解任できる(会社法339条1項)。正当な理由がなく解任された者は、会社に損害賠償を請求できる(同条2項) | 解任の決議そのものを契約だけで確実に封じられるとは限らない。契約違反として違約金や損害賠償を請求する形で担保する |
| 重要事項は同意がなければ決めない | 取締役会を置かない株式会社では取締役が業務を執行し(会社法348条)、取締役会設置会社では取締役会が業務執行の決定をする(会社法362条2項)。株主総会は、取締役会設置会社では法定事項と定款事項に限り決議できる(会社法295条2項) | 会社の機関の権限を契約で変えることはできない。定款に定めるか、種類株式(会社法108条1項8号)の設計を検討する |
| 代表取締役は同意なしに契約を結ばない | 代表取締役の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗できない(会社法349条5項) | 取引の相手に対しては、制限があることを理由に取引の効力を否定できない可能性がある。違反は当事者間の責任の問題になる |
| 特別決議事項の列挙 | 特別決議は、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した議決権の3分の2以上で行う(会社法309条2項)。取締役の選任・解任や配当は、原則として普通決議の事項 | 契約で「特別決議を経る」と書くと、法定の特別決議事項でない事項まで特別決議にすることになる。定款でそう定めるのか、当事者間の約束にとどめるのかを分けて書く |
最後の行は、事務所が扱った運営会社との共同経営契約の読み方に関わります。その契約には、新規事業の開始や閉鎖、一定額以上の設備投資や借入れ、増資・減資、株主配当の決定や変更、取締役などの選任および解任、合併・分割・事業譲渡・会社清算の決定などを、運営会社の株主総会の特別決議を経る重要経営事項として並べていました。会社法では、役員の選任・解任(会社法329条1項・339条1項・341条)や、金銭による剰余金の配当(会社法454条)は、特別決議ではなく、通常は普通決議で決まります。一方で、募集株式の発行の決定(会社法199条2項)、資本金の額の減少(会社法447条1項)、事業の重要な一部の譲渡(会社法467条1項2号、309条2項11号)などは、特別決議が必要な場合があります。借入れや設備投資は、会社法上は、原則として取締役(取締役会設置会社では取締役会)が決める事項で、法律が株主総会の決議事項と定めているものではありません。
したがって、重要事項の一覧を契約書に並べるときは、事項ごとに「会社法で決議を要する機関と要件」と「当事者間で上乗せする要件」を分けて整理する必要があります。事務所で整理する手順は次のとおりです。
重要事項の一覧を作るときの手順
- 1 事項を書き出す廃止、新店、借入、設備投資、増資、配当、役員の選任・解任、事業の譲渡、提携、解散など、出資者が同意権を持ちたい事項を洗い出します。
- 2 法律上の決め手を確かめるそれぞれについて、株主総会(普通決議か特別決議か)、取締役会、代表取締役のどれが決めるのかを会社法で確かめます。
- 3 上乗せ方法を選ぶ定款に定める、種類株式(拒否権付き)にする、株主間契約で同意権を与える、の3つから、事項ごとに選びます。第三者への効力が必要な事項ほど、定款や種類株式の設計が必要です。
- 4 違反の効果を書く契約違反の場合の違約金、差止め、解除、株式の買取りなど、会社の行為が無効にならないことを前提とした制裁を書きます。
- 5 動けない状態に備える同意が得られず事業が止まったときの、期限、第三者の意見、現状維持の定めを置きます。
先に触れた三者間契約には「事前の書面による同意なく重要事項を決定または実行した場合、当該行為は無効とみなされる」という定めがありました。契約の当事者の間では、そのように合意すること自体は可能ですが、会社や取引の相手方との関係では、会社法の規定や代表取締役の権限(会社法349条5項)が優先します。「無効とみなす」と書いたことで、行為そのものを止められるとは限らず、実際に役立つのは、違反した当事者の損害賠償、違約金、株式の買取請求、といった契約上の責任の部分です。
少数の出資者を守る:責任を負わない旨、情報、不正を解除事由にする
ふたつめの系統、運営会社の株主として加わる出資者の契約では、出資者の側を守る条項が中心でした。出資者は、運営会社の発行済株式の一部を持つ株主として経営に一定の関与をするものの、業務執行には直接関わらず、運営会社の負債や責任や義務のいかなる部分についても、一切の法的責任を負わない、と書かれています。意見を述べることはできるが、運営会社がそれを受け入れる義務はなく、意見に基づいて運営会社が判断して損害を被っても、出資者は責任を負わないという、一対の定めもありました。
株主の責任は、そもそも株式の引受価額が限度です(会社法104条)。それでもこうした定めが置かれるのは、出資者が運営会社の経営に関与して意見を述べることで、実質的に経営を左右していたと評価され、責任を問われる事態を避けたいからだと考えられます。一方で、意見を述べることで経営を支援する出資者は、その助言の結果についても責任を負わないことを、運営者と明確にしておきたいという事情もあります。取締役に就任する場合は、取締役としての責任(会社法429条1項の第三者に対する責任など)が別途生じる点に注意が必要です。
少数の出資者が、運営会社の経営の状況を知るための手段は、法律上は限られています。株主名簿の閲覧請求(会社法125条2項)や、議決権または発行済株式の100分の3以上を有する株主による会計帳簿の閲覧請求(会社法433条1項)はありますが、請求の理由を明らかにする必要があり、拒める場合も定められています(会社法125条3項、433条2項)。持株が少ない出資者は、これらの権利に頼れない可能性もあるため、契約で定期的な財務情報の提供を義務づけておくほうが現実的です。
ヒヤリングの問い少数出資者の側から、確認したい点
問経営に関与する範囲を、どこまで書くか
理由「一定の関与」とだけ書くと、関与した範囲が曖昧になり、後で責任の議論が起きます。総会での議決権の行使、取締役会や経営会議での意見陳述、重要事項への同意、のうち何を持つかを書き分けます。
問財務情報をいつ、どの形で受け取るか
理由月次の試算表、四半期の決算、年次の計算書類のうち何を、いつまでに受け取るのかを決めます。会社法上の閲覧請求を使わなくても済みます。
問利益の分配を、誰がどう決めるか
理由配当は株主総会で決まります。運営会社が留保を続けて配当しない場合に備えて、留保の方針、配当の基準、出資者に開示する情報を書いておきます。
問付随する事業の収益は出資者の取り分に入るか
理由運営会社が別の事業(教室、物販など)を並行して運営しているときは、その収益を配当の対象に含めるか、運営会社が単独で管理するのかを明確にします。事務所の書類では、付随する事業の収益は運営会社が単独で管理し、出資者はその配当請求権も、利益分配を求める権利も、経営に関与する権利も持たないと書きました。
問財務上の不正があったとき
理由財務上の不正を、催告なしの解除事由に挙げます。故意の隠蔽や改ざんが判明した場合の損害賠償請求と、取締役への追及の方法もあわせて書きます。
出資者の側に立つか、運営者の側に立つかで、同じ条項の意味は逆になります。上の問いは、少数出資者の側から見たものです。
運営者の側から見ると、同じ条項は逆の意味を持ちます。出資者に経営の権限を与えすぎると、運営の機動力が落ちます。事務所の書類では、重要経営事項は株主総会の決議にかける一方で、日常の運営は運営会社が単独で行い、出資者は最終的な意思決定権を持たない、と整理していました。重要事項の範囲を絞り込み、日常の運営と切り分けることが、運営者に受け入れられやすい契約の条件になります。
撤退と清算:誰が、何を、いくらで引き取るか
共同経営の契約で最も争いが起きやすいのが、別れるときです。事務所の書類では、撤退の場面を、誰が撤退するのかで分けて書いていました。
撤退のパターンと、清算の書き方
運営者が合理的な理由なく撤退する
出資者を守る定め
- 運営に関する未払債務、賃貸借契約上の残存債務、設備のローン債務など、事業の継続に必要な財務上の義務を運営者が単独で負担する
- 出資者が事業のために負担した資金のうち、撤退時に未回収の額を、撤退日から一定期間(30日)以内に全額払う
出資者が撤退する
運営者を守る定め
- 撤退の原因が運営者の重大な違反などにある場合は、出資者の株式を、取得価額と公正価値のいずれか高い額で買い取る
- 買い取らないときは、出資者が負担した初期投資費用を払う
共同で終了する
清算の順序を決める
- 債務を弁済してから残りを分ける
- 出資額を先に戻すのか、持分で分けるのかを決める
- 一方が事業を続ける場合は、評価の基準と評価する人を決める
撤退の原因によって、買取りの価格も、誰が負担するかも変わります。原因を判定する人(協議、第三者、裁判所)も決めておく必要があります。
取得価額と公正価値のいずれか高い額で買い取るという定めは、出資者に有利な設計です。出資者が損をしないよう、最低でも取得価額(出資額)を保証し、会社の価値が上がっていれば、その上昇分も受け取れるようにします。反対に運営者の側では、撤退の原因が出資者の事情にあるときは、「高い額」ではなく「低い額」にする、あるいは評価の期間を限る、といった調整をします。
買い取る主体が誰なのかも、書き分けておく必要があります。相手方の株主が買い取るのであれば、株主どうしの売買です。会社が買い取るのであれば、株主との合意による自己株式の取得(会社法156条)として、株主総会の決議などの手続が必要になり、剰余金の分配可能額による制限(会社法461条)も受けます。契約書に「会社が買い取る」と書いても、手続と財源が満たされなければ実行できないため、通常は株主どうしの売買、または会社が買い取れないときは株主が買い取る、という二段構えで書くことが多くなります。株式を譲渡できる会社かどうか、譲渡の承認が必要かどうか(会社法2条17号の譲渡制限株式)も、買取りの実行に影響するため、あらかじめ確認します。
条文例撤退時の買取りの書き方の一例(出資者が撤退する場合)
- 乙の重大な違反により甲が本契約を解除したときは、乙は、甲の請求により、甲が保有する株式の全部を、次の各号のうち高い額で買い取る。(1)甲が当該株式を取得した際の取得価額 (2)解除の日を基準日として、甲乙が合意した第三者が算定した公正価値
- 前項の買取代金は、甲の請求の日から〇日以内に、現金で払う。乙が払わないときは、甲は、乙に対して、年〇パーセントの割合による遅延損害金を請求できる。
- 乙が第1項の買取りを実行しないときは、甲が負担した初期投資費用を、乙が払う。
書き方の要点公正価値の算定を第三者に委ねる場合は、第三者を誰が選ぶのか、費用を誰が負担するのか、算定の結果に不服があるときの扱いも書いておきます。
共同で経営する人が複数いる場合には、売上の配分と役員報酬は別のものとして整理しておく必要があります。取締役の報酬等は、定款に定めがなければ株主総会の決議で定めます(会社法361条1項)。会社の売上から共同代表者に何をどう分けるのかを、役員報酬として会社が払うのか、それとも別の契約に基づく配分なのかによって、会社法の手続と、会社内の決議が変わります。一般論ですが、報酬と配分を同じ条に混ぜると、あとで一方を減額したいときに、どちらの手続が必要かが分からなくなります。
点検表と、起きがちなこと
以上を踏まえて、共同経営の契約書を作る、またはレビューするときの点検表を整理します。
共同経営契約書の点検
- 型を決めたか:株式会社への出資、組合、匿名組合、出資者が事業主体の委託、のどれなのか。
- 利益の取り方を決めたか:配当か、委託料か。委託料なら、基礎となる「純利益」を定義したか。
- 名簿上の株主と実質の持分が違うなら、名義株主の処分の禁止、議決権行使の指示への従属、配当の受け渡し、不測の事態への対応を書いたか。
- 重要事項の一覧を、事項ごとに、会社法上の決議の要件と、当事者間の上乗せの要件に分けたか。
- 取締役への就任や議決権行使の約束は、違反したときの契約上の責任(違約金、買取り)まで書いたか。
- 出資者が責任を負わない旨と、運営者が出資者の意見を受け入れる義務を負わない旨を、対にして書いたか。
- 財務情報の提供の頻度と形式を決めたか。財務上の不正を解除事由にしたか。
- 撤退の原因ごとに、誰が何をいくらで引き取るのかを決めたか。評価の基準と評価する人を決めたか。
- 更新の定めに、解約の申出の期限を入れたか。協議が整わないときの手続を決めたか。
点検のうち、特に抜けやすいのは、最初の「型」の決定と、最後の「協議が整わないときの手続」です。型が決まっていないと、利益の取り方も、撤退の清算も、議論の前提がそろいません。協議が整わないときの手続がないと、重要事項の協議を必要とするという定めが、事実上の拒否権になって、事業が止まります。
共同経営の契約で、起きがちなこと
- 「純利益の〇パーセント」と書いたが、純利益の定義がなく、毎月の委託料の計算で、運営者と出資者の数字が合わなくなる。
- 出資者が運営資金の全額を出したのに、終了時の清算が折半になっていて、出資額の返戻が考慮されていない。
- 更新の定めに解約の期限がなく、更新の直前に関係が悪化して、更新するかどうかが争いになる。
- 名義上の株主が、実質の持分を持つ人の同意なく株式を譲渡し、第三者が名簿に記載される。
- 「株主総会の特別決議を経る」と書いた事項の中に、法律上は普通決議や取締役会の決議で足りる事項が含まれていて、実際の手続と契約書が食い違う。
- 「同意なく決めた行為は無効とみなす」と書いたが、会社や取引の相手方との関係では効かず、止められなかった。
- 出資者が「一定の関与」を持つと書いたが、関与の範囲が曖昧で、経営の失敗の責任をめぐる争いになる。
- 撤退時の買取価格が「協議により算出」とだけ書かれていて、協議が整わず、評価の方法を決められない。
- 共同代表者への配分を役員報酬として会社が払うのか、別の契約に基づく配分なのかが、書面で決まっていない。
共同経営の契約は、うまくいっている間は読み返されません。読まれるのは、利益が出なくなったとき、関係が悪化したとき、どちらかが抜けたいと言い出したときです。その日に読んで使える契約書にするためには、型、利益、株主の地位、意思決定、撤退の5つを、それぞれ別の条に分けて書いておくことが近道です。
よくあるご質問
共同経営契約書は、出資者と運営者のどちらの立場で作るかで、内容は変わりますか。
変わります。出資者の側に立つときは、運営者を縛る条項(業務の範囲、報告、財務上の不正を理由とする解除、撤退時の未回収資金の返還)と、出資者の責任を限定する条項(負債を負わない旨、意見に基づく結果に責任を負わない旨)を重くします。運営者の側に立つときは、重要事項の範囲を絞って日常の運営を守る条項、純利益の定義と控除できる費用、出資者の事情で撤退するときの買取りの価格を中心に調整します。同じ条項でも、書き方の方向が逆になります。
名義上の株主と実質の持分を分けると、実質の持分を持つ人は株主として扱われますか。
会社との関係では、株主名簿に記載された人が株主として扱われます(会社法130条1項)。契約で実質の持分を定めても、それだけでは、実質の持分を持つ人が会社に対して自分は株主だと主張できるとは限りません。そのため、名義株主の処分の禁止、議決権行使の指示への従属、配当の受け渡し、名簿の書換えへの協力などを、契約上の義務として固めておきます。
株主間の契約に「取締役に選任する」と書いておけば、選任されるのですか。
役員は株主総会の決議で選任され(会社法329条1項)、決議は、原則として、議決権の過半数を有する株主が出席し、その過半数で行います(会社法341条)。契約で賛成票を投じる約束をしても、約束を守らなかったときに、決議が当然に無効になるとは限りません。約束に反した株主に対しては、契約違反として違約金や損害賠償を請求する形で担保します。また、取締役は株主総会の決議によっていつでも解任でき(会社法339条1項)、正当な理由がなく解任された場合の損害賠償の問題(同条2項)が別に生じます。
共同経営の契約に、組合になる心配はありますか。
出資者と運営者が、それぞれ出資をして共同の事業を営む約束をすれば、組合契約と評価される可能性があります(民法667条1項)。組合と評価されると、組合の債権者は、各組合員に、損失分担の割合か等しい割合で請求できます(民法675条2項)。株式会社への出資として組む場合は、株主の責任は引受価額が限度です(会社法104条)。表題や条文に「組合ではない」と書くだけでなく、口座の名義、第三者との契約の当事者、損失の負担を実際に分けておくことが大切です。組合にしない条項の書き方は、業務提携・共同事業のページで説明しています。
共同経営の撤退時に、出資者が出資額を取り戻せる書き方はありますか。
撤退の原因が運営者の側にある場合に、出資者の株式を、取得価額と公正価値のいずれか高い額で買い取るという書き方があります。取得価額(出資額)を最低額として保証し、会社の価値が上がっていればその分も受け取れる設計です。買い取る主体は、相手方の株主にするか、会社にするかを決め、会社が買い取る場合は、会社法の自己株式の取得の手続と、分配可能額による制限(会社法156条、461条)を満たす必要があります。評価の基準日と、評価する第三者も、あらかじめ決めておきます。
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