このページの要点
- 変更覚書は、原契約の特定、変更する点、その他は原契約のとおり、の3つ。冒頭の【事情】欄に、結ぶ理由を書く。
- 報酬の条件と金額は原契約に置き、覚書では開始日の確認を中心にする。期間のずれは、覚書が各契約の期間条項を上書きすると明記する。
- 合意解除は、合意した内容が効果を決める。精算、請求しない旨の確認、残す条項の名指し、データやアカウントの引継ぎを書く。
- 報酬の引下げ、支払期日の変更、継続的な契約の終了は、相手が個人や小さな事業者のとき、取適法やフリーランス法の確認が要る。
結論:変更は「変更覚書」、終わりは「合意解除の覚書」。骨組みは同じで、中身の勝負は後ろにある
コンサル契約や顧問契約は、結んだ後に変わります。業務が増えて報酬を見直す、2つの契約の期間がずれていたのでそろえる、月額や個別の業務をあらためて特定する、新しいひな形に切り替える、そして合意のうえで契約を終える。契約書本体を作り直さず、短い覚書で済ませる場面は多く、覚書は契約を結ぶ書類よりも、軽く扱われがちです。
契約は、当事者が合意すれば変更でき、終わらせることもできます。契約の内容は法令の制限内で自由に決められ(民法521条2項)、契約の成立に書面の作成その他の方式は法令に特別の定めがない限り要りません(同法522条2項)。そのため、メールやチャットのやり取りだけでも、変更や終了の合意が成立する余地はあります。しかし、後から「いつから、何が、どう変わったのか」「何が残ったのか」を示せるのは、書面です。このページでは、事務所が扱ってきた覚書をもとに、変更覚書と合意解除の覚書の骨組みと書式、手続を説明します。覚書と本契約が食い違ったときの優先関係はPoC・パイロット・覚書のページで、報酬の改定を本契約でどう定めておくかは報酬設計のページで扱うので、ここでは、変更と解除の手続と書式に絞ります。
- 変更覚書は、原契約の特定、変更する点、その他は原契約のとおりという確認の3つを骨組みにする。冒頭に【事情】の欄を置くと、なぜ結ぶのかが後から読める。
- 変更の場面は、報酬の改定、期間のずれの調整、個別の業務や月額の特定、契約の切替えの4つに整理できる。それぞれで、書く内容と落とし穴が違う。
- 合意解除の覚書は、どの契約を終えるか、合意して解除すること、解除後の取決めの3つが骨組みで、本体は3つ目にある。精算、終わっても残す条項、データや公開物の扱いを書く。
- 報酬を下げたり、支払期日を延ばしたり、契約を終えたりする覚書は、相手が個人や小さな事業者のとき、取適法やフリーランス法の規律に触れることがある。覚書に署名があっても、それだけでは足りない場面がある。
変更覚書の骨組みと、【事情】の欄
変更覚書は、原契約の条文を差し替える書面ではなく、原契約を前提に、変える点だけを記す書面です。事務所の書類にある覚書は、おおむね次の順に組まれています(覚書の冒頭に事情欄を置く書式はPoC・パイロット・覚書のページでも触れています)。
変更覚書の骨組み(事務所の書類にある覚書に共通する順序)
- 【事情】の欄冒頭に置く。なぜこの覚書を結ぶのか(新しい契約書への切替え、2つの契約書の期間の不一致、業務の追加など)を、2〜3行で書く。
- 原契約の特定「令和〇年〇月〇日付の〇〇契約(以下「原契約」という。)」のように、契約の名称と日付で特定する。定義語は、覚書の中で一度決めたら、本文でも同じ言葉を使う。
- 変更する点条番号を挙げて、「原契約第〇条を次のとおり改める」「〇月分以降の報酬は月額〇円(税込)とする」と書く。変更の効力が生じる日を書く。
- その他は原契約のとおり本覚書に定めのない事項は原契約による、と確認する。優先関係を書くなら、ここに置く。
- 署名または電子署名2通作って各1通を保有する、または電磁的記録として作成し電子署名で締結する、と書く。
【事情】の欄は、条文ではなく、説明のための文です。事務所の書類にある2024年の覚書のひな形では、契約更新の覚書、契約期間の覚書、契約解除の覚書、委託業務の覚書、委託料支払いに関する覚書のいずれにもこの欄がありました。たとえば、期間の覚書の事情欄は、同時に結んだ枠組みの契約と個別の契約の有効期間が一致しなかったため、新たな契約期間を定めることになった、という内容です。条文は「何を決めたか」を書き、事情欄は「なぜ決めたか」を書くので、後から読む人が、覚書が原契約をどう変えようとしたのかを判断する手がかりになります。契約が揉めたとき、覚書の趣旨をめぐる争いは、条文の言葉そのものより、結ぶに至った事情の食い違いから生じることが多いからです。
条文例変更覚書の骨組み(報酬の改定の例)
- 委託者と受託者は、令和〇年〇月〇日に締結した運用代行業務委託契約(以下「原契約」という。)に関し、次のとおり合意する。
- 受託者が、原契約第2条に定める軽微な更新業務を、令和〇年〇月〇日から開始したことを、委託者と受託者は相互に確認する。
- 前項の業務の開始に伴い、原契約第19条第1項に定める報酬は、令和〇年〇月分(同月末日支払分)以降、月額金〇円(税込)に改定する。
- 改定後の報酬の支払時期、支払方法その他の条件は、原契約の定めるところによる。
- 本覚書に定めるもののほか、原契約の各条項は、引き続き有効に適用される。本覚書の内容と原契約の内容との間に齟齬がある場合には、本覚書の定めが優先する。
書き方の要点覚書の中で決めているのは、開始日の確認と、改定後の月額と、改定が始まる月だけです。改定の条件そのものは原契約に書いておきます(次の節)。
変更の4つの場面:報酬、期間、業務の特定、契約の切替え
| 場面 | 覚書に書くこと | 原契約に先に書いておくこと | 落とし穴 |
|---|---|---|---|
| 報酬の改定 | 新しい業務の開始日の確認、改定後の月額、改定が始まる月 | 「新しい業務を開始した月以降は増額する」という条件と、金額。開始日は覚書で確認するという手続 | 開始日と報酬の月が食い違う。改定前の月分の扱いが書かれていない |
| 期間のずれの調整 | 共通の有効期間、更新の条件(例:満了の3か月前までに異議がなければ1年延長) | 各契約が、覚書による上書きを認める条項(書面による変更) | 覚書が各契約の期間条項を上書きすることを明記しない。更新の止め方を書かない |
| 個別の業務・月額の特定 | 原契約の委託業務の具体的な内容、月額、支払期日、振込手数料の負担、遅延損害金 | 個別の業務と報酬は、覚書で定めることができるという条項 | 「原契約」「本契約」など語が混ざる。税込・税抜が不統一 |
| 契約の切替え | 従前の契約を合意解除すること、新しい契約を結んだものとみなすこと | 新しい契約の締結手続(枠組み契約と個別契約の関係) | 切替え前に発生していた債権債務の扱いが書かれていない |
報酬の改定は、最も頻度の高い場面です。月額固定でSNSの運用を代行する契約では、本契約の報酬の条に、ホームページの軽微な更新業務を開始した月以降の月額と、その報酬の改定時期は別に覚書を締結して確認する、という条件を最初から置きました。改定後の報酬は、改定の条件と金額を本契約に書いておき、覚書では「いつ、その業務が始まったのか」を確認するだけの書面にしたことで、覚書の役割がはっきりしました。開始日が確認できれば、報酬が上がる月が一義に決まるからです。当初の案にはこの業務は含まれておらず、改訂後の契約書で業務の範囲と報酬の条件を本契約に加え、その実施の確認を覚書に分けた形です。
事務所の改訂例 業務の追加と報酬の改定を、本契約と覚書に分ける(運用代行の契約)
業務の範囲
なぜ業務が広がることと、広がらない範囲の双方を本契約に書いておくことで、報酬が上がる理由と限度を明確にするため。
報酬の改定
なぜ金額と条件は本契約で決めておき、覚書では開始日だけを確認することで、覚書が軽い書類で済み、争点が少なくなるため。
期間のずれの調整は、枠組み契約と個別契約を同時に結んだのに、有効期間が一致していなかった場合に生じます。覚書では、各契約書に書かれた有効期間にかかわらず、共通の期間を定めると宣言し、その期間と更新の条件を定めます。ここで、覚書の中で原契約を「原契約」と定義したのに、本文で「本契約」と書き換えてしまうと、どの契約の話なのか読み手が迷います。定義語の書き方は、覚書のように短い書面でこそ、一貫させる必要があります。
個別の業務・月額の特定は、基本の業務委託契約を結んだ後で、具体的な業務の内容と報酬を覚書で補う型です。「月額金〇円(税込)」「翌月末日までに当月分を振り込む」「振込手数料は〇〇の負担とする」「遅延したときは年14.6%の割合の遅延損害金を支払う」といった条件を、一枚で書きます。これは、実際には原契約の補充なので、原契約の側に、個別の業務と報酬を覚書で定めることができるという条項を置いておくと、つながりが明確になります。
契約の切替えは、従前の契約書を、新しいひな形の契約書に置き換えるときに使います。従前の契約を合意解除し、新しい契約を結んだものとみなす、という書き方です。新しい契約書を相手方に改めて署名してもらう代わりに、覚書の締結をもって新しい契約を締結したものとみなす、とすることで、署名の手間を省けます。その代わりに、切替えの前に生じていた報酬や権利義務の扱いと、切替え後の契約解除をどの契約の手続で行うのかを、覚書の中に書いておきます。
当事者が3人になる覚書にも触れておきます。権利の移転を三者で確認する覚書のレビューでは、三者目の当事者が、どの権利と義務を、いつから、どんな条件で負うのかが書かれていないこと、契約が成立しなかったり中断したりしたときの効果、直接取引の禁止に違反したときの効果(解除、前払金の扱いなど)が書かれていないことを、主なリスクとして挙げました。三者以上の覚書は、一対一の覚書を並べただけでは足りず、誰が誰に対して何を約束するのかを一つずつ書き分ける必要があります。
変更と解除の手続:誰が、いつ、どうやって残すか
覚書の条文が整っていても、手続が曖昧だと効力が争われます。次の点を、書式とは別に確認します。
| 確認事項 | 確かめること | なぜ |
|---|---|---|
| 原契約の変更条項 | 原契約に、変更は書面または電磁的方法による合意で行う、という条項があるか | 条項があれば、覚書の形式を守ることが効力の要件になりうる。ない場合も、合意の存在を示すために書面にする |
| 署名する人 | 覚書に署名する人が、原契約に署名した人と同じか、権限のある人か | 権限のない人の署名は、後で効力が争われる |
| 効力発生日 | 覚書を結んだ日と、変更が効力を生じる日を分けて書いているか | 報酬の改定や期間の変更では、締結日と効力発生日が異なるのが普通 |
| 遡った変更 | 変更を過去の日から有効にする場合、その間にすでに行われた業務と支払の扱いを書いているか | 遡る変更は、すでに払った金額の精算が必要になる |
| 電子署名・日付 | 電子契約なら、双方の署名が完了した日が覚書の日になるか。空欄の日付をどう扱うか | 日付の食い違いが、効力発生の時期の争いになる |
| 原契約の定義との整合 | 覚書で使う定義語を、原契約と同じ意味で使っているか | 言葉のずれが、解釈のずれになる |
変更や解除を書面にするときは、意思表示の効力が相手方に到達した時から生じる(民法97条1項)ことも意識します。一方的な通知ではなく、合意を記録した書面を相互に保有していれば、到達の問題は生じませんが、片方が署名して送付し、相手方の署名が戻ってこない状態で、変更が始まったのかどうかが分からなくなる場面は実務でよく見られます。署名が揃った日を、誰がいつ確認するのかを決めておきます。
法令が関わる場面もあります。委託する側が資本金の大きい会社などで、受託する側が個人や小さな事業者の場合、取引が、中小受託取引適正化法(取適法。2026年1月1日から名称が変わった旧下請法)の対象になることがあります。対象になるかどうかの判断(役務提供委託に当たるか、資本金や従業員数の区分)と、支払期日の定めは大企業・外資系の取引先とのコンサル契約のページで説明しています。ここで押さえたいのは、対象になる場合、委託事業者は、中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに、代金の額を減ずることができない(同法5条1項3号)という点です。覚書で報酬を引き下げる、支払期日を後ろに延ばすといった変更を合意する場合は、受託者が署名しているからといって当然に許されるわけではない、という前提で確認します。
受託者が、従業員を使用しない個人や一人だけの法人(特定受託事業者)に当たるときは、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)が関わります。同法3条は、給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を書面または電磁的方法で明示することを求めており、変更覚書で報酬や支払期日が変わるときは、変更後の内容が相手方に明示される形にしておくのが無難です。また、委託する側が従業員を使用しているなどの特定業務委託事業者である場合、同法16条は、継続的業務委託(政令で定める期間以上、現在は6か月以上続くもの)に係る契約の解除(契約期間の満了後に更新しない場合を含む)をしようとするときは、少なくとも30日前までに予告することを求めています。合意による終了の覚書を結ぶときも、それが双方の真意による終了であることが、記録から分かる形にしておきます。
合意解除の覚書:終わり方を見分け、3つの骨組みで書く
契約の終わり方は、大きく3つに分かれます。期間が満了して更新しない終わり方、一方が契約に従って解除する終わり方、そして双方が合意して終わらせる終わり方です。合意解除の覚書は、3つ目の場面のための書面です。ここを区別しておくのは、終わり方によって、必要な書面も、書くべきことも変わるからです。
契約の終わり方の3つの型
期間満了
更新しないことで終わる
- 特別な書面がなくても終わる
- 更新の止め方(通知の期限)が原契約にあるかを確認する
- 更新しない旨の通知は、記録に残す
一方的な解除
債務不履行など、法律や契約の定めに従って解除する
- 解除は相手方に対する意思表示による(民法540条1項)
- 解除の効果は原状回復など(同法545条)
- 揉めている最中に行うことが多く、書面の組み立てが別になる
合意解除
双方が合意して、契約を途中で終える
- 合意の内容が効果を決める
- 解除後の取決めを書面で決める
- 覚書の本体は、解除後の取決めにある
合意解除は、一方的な解除を定めた民法の規定(540条以下)で自動的に処理されるのではなく、合意した内容が基準になります。たとえば、原状回復を定めた民法545条は「解除権を行使したとき」の規定なので、合意解除でどこまで返すのかは、覚書に書いて初めて確定します。
合意解除の覚書の骨組みは3つです。第一に、どの契約を終わらせるのかを特定する(「令和〇年〇月〇日付の〇〇契約(以下「原契約」という。)」)。第二に、双方が合意のうえで、原契約を解除する日を決め、解除すると書く。第三に、解除後の取決めを書く。ここが覚書の本体です。事務所の書類にある2024年の契約解除の覚書のひな形も、冒頭に【事情】の欄を置き、原契約の特定、原契約のうち解除後も守り続ける条項、解除後の取扱い、個人情報の取扱い、損害賠償責任の順に並べています。
条文例合意解除の覚書の骨組み(要素を抜き出した形)
- 委託者と受託者は、令和〇年〇月〇日付の〇〇業務委託契約(以下「原契約」という。)を、令和〇年〇月〇日(以下「解除日」という。)をもって、合意により解除する。
- 委託者と受託者は、解除日以後も、原契約第〇条(秘密保持)、第〇条(知的財産権)、第〇条(権利義務の譲渡禁止)、第〇条(禁止行為)の規定が引き続き効力を有することを確認する。
- 解除日までに発生した報酬は、別紙の精算表のとおり精算する。委託者と受託者は、前項及び別紙に定めるものを除き、原契約に関して相互に金銭の請求をしない。
- 解除日以後の成果物、データ、アカウントの引継ぎ又は消去は、次のとおりとする。(1)…(2)…(3)…
- 委託者と受託者は、原契約により知り得た個人情報を、解除日以後も個人情報の保護に関する法律に従って取り扱い、原契約の秘密保持の規定を準用する。
- 委託者又は受託者は、本覚書に違反して相手方に損害を与えたときは、その損害を賠償する責任を負う。
書き方の要点条番号を挙げて残す条項を名指しすること、精算の範囲と「それ以外は請求しない」の確認をセットにすること、引継ぎの項目を空欄のままにせず埋めるか斜線で消すこと(空欄の書き足しを防ぐ)が要点です。
精算と、終わっても残す条項:何を払い、何を守り続けるのか
合意解除でいちばん揉めるのは、お金と、残す約束です。覚書では、この2つを分けて書きます。
お金の精算から。準委任の契約では、委任が履行の中途で終了したときは、受任者は既にした履行の割合に応じて報酬を請求できる(民法648条3項)とされています。ただし、合意解除では、この考え方を出発点としつつ、覚書で別に合意することもできます。精算の対象は、次のように並べると漏れが減ります。
| 項目 | 決めること | 例 |
|---|---|---|
| 解除日までの報酬 | どの期間の分まで、いくらか。月の途中で終わるなら日割りにするか | 解除日の属する月の分は全額とする、または日割りとする |
| 前払いの報酬の返還 | 返す額と時期。返さないなら理由 | 前払いの未消化分のうち、一定額を返す。または、返さないものとする |
| 成功報酬・分配金 | 解除後に入金される売上の分配、テール(終了後の一定期間の報酬)の扱い | 解除後〇か月間に入金された売上は従前の割合で分配する |
| 費用・立替金 | 立替払いの精算の範囲と期限 | 領収書に基づき、解除日から〇日以内に支払う |
| 違約金・早期終了の条項 | 原契約に早期終了の違約金があるとき、免除するか、減額するか、請求するか | 本解除に関して相互に金銭の請求をしない、と一文で整理する |
| 清算済みの確認 | 請求権をすべて清算したのか、一部を留保するのか | 原契約に関する債権債務は本覚書に定めるものを除き存在しないことを相互に確認する |
違約金については、原契約に、早期に終わらせたときの違約金の定めがあることがあります。民法420条3項は、違約金は賠償額の予定と推定すると定めています。合意解除のときに、この違約金をどうするのかを書かないままにすると、「円満に終わったから払わなくてよい」と思っていた側と、「定めがあるから払ってもらう」と考えていた側が、後で食い違います。免除するなら「本解除に関して相互に金銭の請求をしない」と書き、請求を残すなら、その額と理由を書きます。
残す条項は、原契約のうち、解除日の後も効力を持たせたいものを、条番号を挙げて名指しします。原契約に存続条項があれば本来は残りますが、解除の場面で改めて確認しておくと、双方がどの条項が続くのかを意識できます。秘密保持、知的財産権、権利義務の譲渡禁止、活動中に課していた禁止行為、品位の保持などが対象になります。成果物の権利については成果物・知的財産のページ、秘密保持の期間の定め方はNDAのページを参照してください。
原契約に抜けがあった項目を、解除の場面で拾うこともできます。たとえば、原契約に個人情報の取扱いの条項がない場合、解除の覚書で「原契約により知り得た個人情報は、個人情報の保護に関する法律に従って取り扱い、秘密保持の規定を準用する」と書けば、終わった後の個人情報の扱いに筋を通せます。「準用」とは、ある規定を、性質に反しない限り別の場面に当てはめることをいいます。
データ・成果物・公開物・競業:終わった後の「物」と「関係」の後始末
契約が終わったとき、お金の次に宙に浮きやすいのが、成果物やデータ、アカウントといった物と、その後の関係です。
ヒヤリングの問い合意解除の覚書を作るための問い
問共同で運営していたアカウントや、共有している資料はありますか。誰が引き取り、誰が消しますか。
理由デジタルの資産は、形がないぶん、決め忘れて宙に浮きます。引取りか消去かと、その期限を決めます。
問相手から預かっているデータや、貸している素材はありますか。
理由返却か削除かを、期限を付けて決めます。決めないと、終わった後もデータが残り続けます。
問すでに公開したコンテンツのうち、非公開にしたものはありますか。それを終了後に使われても困りませんか。
理由対象を絞って書きます。「二次利用の禁止」と全体に書くと、問題のない公開物まで縛ることになります。
問成果物の権利は、原契約でどちらにありますか。終了後に、どちらがどこまで使えますか。
理由原契約で決まっているなら覚書で確認し、曖昧なら終了前に決め切ります。
問終了後に、相手の顧客や取引先と直接取引をすることを制限したいですか。いつまでですか。
理由終了後の制限は広すぎると効力が疑われます。守りたい範囲と期間に絞ります。
問相手方ごとに、特別な約束が必要ですか。
理由共通のひな形を作り、相手ごとの約束は専用の条文に書き足します。入れるものがないときは、欄に斜線を引き、意図的に空けたことが分かるようにします。
終了後の競業や直接取引の制限は、ことに慎重に書きます。活動中に課していた「相手の顧客と直接取引をしない」という禁止を、終了後も全面的に続けると、広すぎて効力が疑われる可能性があります。守りたい対象(一緒に築いたクライアントとの関係など)と期間に絞って残すほうが、実際には機能します。このあたりは業務提携のページの競業避止の節とも関係します。
個別の約束を、相手ごとに変えたいときは、共通の覚書のひな形を作り、相手方ごとの約束は専用の条文(例:解除後の制限事項)にまとめて書き足す方法が運用しやすくなります。本体を触らず、その条文だけを相手に合わせて差し替えられるので、どこが特別な約束なのかが一目で分かります。
最後に、合意解除は、一方的な解除と違い、相手と円満に終わるための書面です。後から「あのとき言った」「言わない」となるのを防ぐための、双方の記憶を一致させる記録でもあります。契約を結ぶときに、終わり方まで考えて存続条項を整えておけば、別れ際の覚書も作りやすくなります。契約の終わらせ方の全体像(返金しない条項の評価、違約金の計算、更新の止め方)は中途解約・更新・精算のページを参照してください。
起きがちなことと、締結前に確かめること
変更覚書・合意解除の覚書で起きがちなこと
- メールやチャットで「では今月いっぱいで」とやり取りしただけで終わらせ、後から「自動更新されていたはずだ」と言われる。
- 覚書の中で「原契約」と定義したのに本文で「本契約」と書くなど、定義語が揺れて、どの契約の話か分からなくなる。
- 報酬を改定する覚書で、開始日が確認されておらず、改定後の金額が適用される月が決まらない。
- 2つの契約の期間を覚書でそろえたのに、覚書が各契約の期間条項を上書きすることを書いていない。
- 合意解除の覚書に、精算の範囲と「それ以外は請求しない」の確認がなく、解除後に未払金と違約金の話が蒸し返される。
- 終了後に残す条項を名指ししないまま、秘密保持や競業の約束が「消えた」と受け止められる。
- 解除後の取扱いの欄を空欄のままにして、後で書き足されたのか、書き忘れなのかが分からなくなる。
- 報酬の引下げや支払期日の変更を覚書で合意したが、取適法やフリーランス法の確認をしていなかった。
締結前に確かめること
- 【事情】の欄に、覚書を結ぶ理由を書いた。
- 原契約を、名称と日付で特定した。定義語は覚書の中で統一した。
- 変更の内容は、条番号を挙げて書いた。効力が生じる日を書いた。
- 報酬の改定は、条件と金額を原契約に置き、覚書では開始日の確認を中心にした。
- 原契約の変更条項(書面による合意)の要件を満たす形式にした。
- 合意解除の覚書は、解除日、精算の範囲、残す条項(条番号で名指し)、データや成果物の引継ぎ、個人情報の扱い、請求しない旨の確認を書いた。
- 空欄が残る条文は、埋めるか、斜線で消した。
- 相手が個人や小さな事業者のとき、取適法やフリーランス法の確認をした。
本ページで引用した民法、製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の条文は、e-Gov法令検索で2026年10月20日に確認しました。なお、保証付きの契約を途中で終える場合の考え方は、成果保証・返金保証を付けるコンサル契約のページにあります。
よくあるご質問
契約書を変更するとき、覚書ではなく契約書全体を作り直すべきですか。
変える点が限られるなら、変更覚書で足ります。原契約を維持したまま、変える条項と効力発生日を書き、「その他は原契約のとおり」と確認する形です。ただし、変更点が多い、複数の条項が連動して変わる、ひな形ごと新しくしたいといった場合は、新しい契約書を結び、従前の契約を合意解除する形(契約の切替え)のほうが、読みやすくなります。切替えの覚書で、従前の契約の精算の扱いを書いておきます。
報酬を上げる覚書を、後から結ぶことはできますか。
できます。契約は当事者の合意で変更できます(民法521条2項)。ただし、原契約に変更は書面または電磁的方法による合意で行う旨の条項があれば、その形式を守ります。あらかじめ、本契約に「新しい業務を始めた月以降は月額を〇円にする」という条件を置き、覚書では開始日を確認するだけにすると、覚書が軽い書類で済みます。受託者が個人や小さな事業者で、委託する側が報酬を下げる場合は、取適法やフリーランス法の確認が要ります。
2つの契約の期間がずれていたとき、覚書でそろえられますか。
そろえられます。覚書で、各契約書に書かれた有効期間にかかわらず共通の期間を定めると宣言し、期間と更新の条件を書きます。覚書の中で、原契約を示す言葉を統一し、各契約の期間条項を上書きする趣旨を明記します。更新の止め方(例:満了の3か月前までに異議の意思表示をする)も、あわせて書いておきます。
合意解除の覚書には、何を必ず書きますか。
原契約の特定、解除日と、合意して解除すること、解除後の取決めの3つが骨組みです。解除後の取決めには、解除日までの報酬の精算、前払金の返還の有無、違約金の扱い、請求しない旨の確認、解除後も守る条項(条番号で名指し)、データや成果物の引継ぎや消去、個人情報の扱いを書きます。合意解除の効果は合意の内容で決まるので、原状回復など法律上の解除の効果に頼らず、覚書に書くことが大切です。
合意解除の覚書を結べば、原契約の秘密保持などの義務も終わりますか。
終わるとは限りません。原契約に、契約が終了した後も効力を持つ存続条項があれば、それが残ります。そのうえで、覚書で、解除日以後も引き続き守る条項を条番号で名指しして確認しておくと、双方の認識がそろいます。逆に、残す義務を限定したいときも、覚書に書かなければ、原契約の存続条項がそのまま働きます。
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